No.874

題名:ヒトの心の、脳に迫る
報告者:ダレナン

 ヒトには大まかに二つの機能面がある。一つは、身体(肉体)であり、もう一つは、精神(心)である。それらが、ともに同時にもたらされているのか、あるいは、別々にもたらされているのかについて、古くから議論され、心身一元論や心身二元論なる定義も生まれた。それは、哲学の事始めでもあり、医学の発展にも繋がった定義でもある。現在では、医学を中心に解剖学などの学問体系によって、脳という器官や、心臓という器官、神経、筋肉、骨、あらゆる臓器についても、その役割が解明され、心身二元論に対する根拠も次第になくなった。そのため、唯物主義的な考え方に基づいて、現在は心身一元論が優勢であり、神秘主義的な考え方として心身二元論が位置している1)。しかしながら、脳科学が発展し、脳を解明する多大な努力にも関わらず、未だにヒトの心の座が確証できてはいない。それは、現代の科学における大きな謎の一つでもある。
 ヒトは進化の過程によって、脊柱を起立での状態で耐えうるように構造化させ、二歩脚で立つとともに、頭蓋の容量も増大させ、肉体をより今の人(ホモ・サピエンス)の形質に適合化させてきた。それと同時に、種間のコミュニケーションも発達させ、人特有の社会性を産み出すことで、地球上における現在の地位を獲得した。他の動物からすれば、自然を改変させるその人の能力は、はた迷惑な進化であったとしても、今さら後には引けない。進化は不可逆性である。その進化の流れで、人として心が芽生えたのは、まがいもない結果である。
 ヒトに心が芽生え始めた理由として、前頭前皮質の機能が指摘されている2)。ヒトは進化によってこの領域の絶対的なサイズが大きくなり、さらに、脳の他の領域との相互接続が増えた2)。この前頭前皮質は、前頭前野とも呼ばれるが、ワーキングメモリー(一時的に記憶する機能)、反応抑制、行動の切り替え、プラニング、推論などの認知・実行機能を担う3)。また、高次な情動・動機づけ機能とそれに基づく意思決定過程も担い、さらに、社会的行動、葛藤の解決や報酬に基づく選択など、多様な機能に関係している3)。これらは、明らかに人として営む上での重要な機能でもある。ただし、単純に脳の重量で問えば、例えば、ゾウやクジラはヒトよりも大きくなることが指摘されている4)。しかしながら、ヒトの脳の場合、皮質の厚さやニューロンの密度が高いために、神経の伝導速度が速く、人間の皮質の情報処理能力も最大である4)。しかも、ヒトの脳は、情報が統合され、「一なるもの」として機能する5)。マルチェッロ・マッスィミーニ博士は、その「一なるもの」の説明として図を提示した5)。図によれば、デジタルカメラのセンサーは独立の

図 脳の「一なるもの」としての統合5)

集まりにすぎないために、分けても機能は変わらないが、脳は左右に分けることによって意識も分かれ、分断するとそれも失われてしまうことを伝えている。すなわち、機能自体がまったく変わる。

1) https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1413928894 (閲覧2018.7.26)
2) Holloway RL Jr.: The evolution of the primate brain: some aspects of quantitative relations. Brain Res: 7:121-72, 1968.
3) https://bsd.neuroinf.jp/wiki/前頭前野 (閲覧2018.7.26)
4) Roth G, Dicke U: Evolution of the brain and intelligence in primates. Prog Brain Res: 195: 413-30, 2012.
5) マッスィミーニ, マルチェッロ. トノーニ, ジュリオ: 意識はいつ生まれるのか. 亜紀書房. 2015.

 
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