No.776

題名:雪舟の山水画における空間構成力
報告者:エゲンスキー

 本報告書は、基本的にNo.774の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 先の報告書にて室町時代における2つの文化、北山文化と東山文化について比較し、東山文化から日本の今の文化に繋がる禅的な要素をもつ芸術、千利休を祖とする茶の湯、日本風の水墨画を大成させた雪舟、日本画の一派である狩野派の祖の狩野正信について触れた。ここでは、雪舟にクローズアップし、雪舟の水墨画、特に、山水画の空間構成力について研究したい。
 西洋画においてメルクマールとなる画家の一人がレオナルド・ダ・ビンチになるが、そのダ・ビンチ曰く、絵画一般についてこう手記している。「絵画は触れぬことができないものを触れるように、平らなものを浮き上がっているように、近いものを遠いように思わせること奇蹟さながらである」1)。これを示すがの如く、ダ・ビンチは科学的な視点で持って様々な遠近法を追求した。ミラノにあるサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院の食堂の壁画にある「最後の晩餐」は、ダ・ビンチの手によるものであるが、一点透視図法を用いて部屋の様子を立体的に描いたその画術は、今では当たり前の技術であるも、当時は抜きんでた画力とされたことは絵の大きさ(420 × 910 cm)からも容易に推測される。そしてその画力から、少なくとも西洋画においてレオナルド・ダ・ビンチ以前と以後において空間構成力が驚くほど変化し始めたのは、ここで言うまでもない。
 一方、日本画は油絵と異なり、マチエール(素材・材質によってつくり出される美術的効果、材質効果2))が得られにくい。特に、水墨画は墨の濃淡で表現することから、西洋画とは異なる技法が必要となる。それが、破墨法である。ただし、マチエールが異なろうとも、空間表現における画家の心理は、大久保義男氏が指摘するように、画家の心象を「リアルに」表すことに他ならない1)。
 破墨法は空気遠近法の一つであり、遠くのものほどかすんで見える原理を応用している1)。これをうまく利用して雪舟は山水画の空間構成力に磨きをかけた。東京国立博物館にある雪舟の代表的な通称破墨山水図を図に示す。建築史を専門とする真木利江博士3)によれば、雪舟の山水画における空間構成タイプは、①断続上昇、②両側回りこみ、③片側回りこみ、④蛇行、⑤遠近対比の5つに類型化されるが、図の破墨山水図は、両側回りこみタイプに相当する。
 雪舟は1420年に生まれ1506年に没したとされるが、1467年の47歳頃に中国の明に渡航し、約2年間に中国の水墨画に触れ、研究している4)。図の

図 破墨山水図4)

破墨山水図は1495年の作品であるが、西洋画とは異なる空間構成力の研究が、この図にも見事に表現され、雪舟以前と以後で日本画の空間構成力に大きな変化がもたらされたのも歴史的事実である。雪舟を画聖とたたえることもあるが、それはこの空間構成力の表現が、雪舟の心象を「リアルに」表しているからであろう。

1) 大久保義男: 空間表現における画法幾何学の脆弱性と画科の心理. 教職課程研究 4: 44-53, 2009.
2) https://www.weblio.jp/content/マチエール (閲覧2018.4.12)
3) 真木利江: 雪舟による掛幅装山水画の空間構成. 日本建築学会計画系論文集 75: 511-516, 2010.
4) https://ja.wikipedia.org/wiki/雪舟(閲覧2018.4.12)

 
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