No.637

題名:”情動”に関わる神経回路 -残酷な天使のテーゼへの補足-
報告者:ナンカイン

 本報告書は、基本的にNo.636の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 先の報告書で”情動”と”感情”について整理し、”情動”は、残酷な天使のテーゼへの序章となりうることを最後に示した。これについて補足すると、”情動”は、セルフコントロールが難しく、”感情”からの直接的な行動の表出となり、それが結局はそのヒトの本質を示す。裏を返せば、アンコントロール(残酷)な、”感情”の発露(天使)を示す、ヒト特有の命題(テーゼ:真または偽という性質をもつ1))、それが”情動”となることが分かる。
 ”感情”の発露が天使であればテーゼも真となるも、場合によって悪魔と化し、その悪魔による行動の表出も行動面では嘘はつけない。ここに、偽のテーゼが生じる。残酷(セルフではアンコントロール)であることから、偽の”情動”を抑えようともおさえきれない。そこで、この状況を如何にして改善できるかが、そのヒトの本質を見直すきっかけともなる。
 では、アンコントロールな”情動”を変えるにはどのようにすればよいのであろうか。
 ”情動”は行動面での表出である。このことから、これが表出する前段階でコントロールすることができる。すなわち、それは”感情”のコントロールに他ならないかもしれない。
 ここで、”感情”、”情動”、”理性”について問い直すと、以前の報告書のNo.351で示されたように、”感情”と”理性(論理)”の構造は、”感情”をベースにその上に”理性(論理)”が積み重ねられる三角形に帰結する。ここに、仮に”情動”を入れるとすると、三角形を区切る中央の線に相当するのであろう。しかしながら、”情動”の厄介な面は、先に示したように”感情”と直接に繋がれる行動の表出であることから、三角形の上に位置する”理性”でもおさえきれないオーバーフローとなる。天使ならよいが、悪魔では好ましい行動とはならない。先の報告書でも記したように、嫌な人が近づいてきたときに、ぴくぴくしてしまうのは、自分に嘘がつけない現象でもある。そこで、この場合は、先の嫌な人との認識を改め、前もって”感情”を好ましい方向へと仕向けることが重要となるに違いない。いわゆるポジティブシンキングがこれに相当するのかもしれない。嫌な人のよい面に気を向けると、ぴくぴくは次第に減弱、ないし、消失するのは、ひとえに”感情”から”情動”へと至る神経回路の組みかえがなされたことに起因する。
 ”情動”に関わる神経回路は二種類のプロセスがあり、一つは大脳皮質を経由せずに、直接大脳辺縁系の送出される回路「感情的計算処理回路」と、もう一つは大脳皮質を経由して辺縁系に送出される回路「認知的計算処理回路」に分けられる(図)。「どこからか降りかかってくる」ような”情動”は前者が担う2)。
 やはり人を動かすのは理性ではなく、感情となり、その間に”情動”が存在する。

図 “情動”に関わる神経回路2)

1) http://www.weblio.jp/content/%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%BC (閲覧2017.10.26)
2) 遠藤利彦: 瞬時的なセンサーとしての情動の世界. 海保博之(編): 瞬間情報処理の心理学. 福村出版. 2000.

 
pdfをダウンロードする


地底たる謎の研究室のサイトでも、テキスト版をご確認いただけます。ここをクリックすると記事の題名でサイト内を容易に検索できます。



...その他の研究報告書もどうぞ