No.588

題名:バラペッポンの夜
報告者:ダレナン

 ある日、その老人は僕にこう言った。

「今晩は、バラペッポンの夜だ。気をつけなさい。」

と。何の意味かさっぱり分からなかった。

 人間観察が好きな僕は、今日も街を歩いて、適当なところに腰を降ろして、行きかう人々を観察していた。しばらくしてそろそろ飽きてきた頃に、一人の白髪の老人が僕に近づいてきた。

「悪いけれども、駅までの道を教えてくれないかな?」

帰宅しようと思っていた矢先だったので、僕は、

「今、駅に向かおうと思っていたところなので、駅まで一緒に行きましょうか?」と誘ってみた。すると、その老人は、

「それは、喜んで。実に助かります。」と満面の笑みを浮かべて、僕の方を見た。目を合わすと、少し青い目をしていたので、日本の方ではないようにも思えた。

 その後、その老人と並んで駅まで向かう10分ぐらいの間、いろいろな話をした。その老人はさっき僕が思ったとおり、純粋な日本の方ではなく、曽祖父がルーマニア地方の方でその血が混じっていること、そして、孫が日本に住んでいるようで、昔から日本に来ていること、10年ぶりに日本に来たために、街が随分様変わりし、駅まで行く道に迷って困っていたところに、僕が視界に入ったとのことであった。

 いろいろ世間話の後、駅が見え始めた時に、その老人は立ち止まり僕の目をじっと見ると、

「実は、君に伝えたいことがあって、声をかけた。君を見たときに、どうしても伝えないといけないと思ったのだ。」。そう言った後に、先ほどのバラペッポンのことを僕に伝えた。その言葉を伝えた後、

「ありがとう。」

と言い残したまま、バラペッポンの意味も教えてくれずに、その老人は駅の雑踏の中に消えていった。帰ってから「バラペッポン」の意味を調べても、辞書はもちろん、インターネット上でも何も見つからなかった。そうこうするうちに、夕方となり、夜になった。あの老人に気をつけさないと言われた「バラペッポンの夜」がやってきたのだ。

 
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