No.2838

題名:今日のお題は、「運命のボタン・ストーリー」
報告者:ダレナン

(No.2837の続き)
真紀のことを思い出すとき、決まって晴れた日の散歩が浮かぶ。風が吹くたび、彼女の髪がふわりと揺れ、前を歩く彼女が何かを見つけては振り返る。「孝彦、これ見て!」そんな仕草がとてもかわいかった。何気ない日常の繰り返しが、永遠に続くような気がしていた。

もし、あんなことがなければ——。僕と真紀はどんな未来を生きていたのだろう。結婚して、子供がいて、どこかの住宅街で、休日には公園でピクニックなんかして。「運命のボタン」を正しく押していれば、そんな映像が今ごろ当たり前のように配信されていたのかもしれない。

でも、実際はどうだ? 僕はリモコンを握りしめながら、キャメロン・ディアス主演の映画『運命のボタン』のレビューを眺めている。星2.6(1)。主演女優の知名度を考えれば、これは低評価すぎる。そもそも動画配信サービスにも置かれていない。まるで、この映画がなかったことにされているようだ。

……ああ、なるほど。そういうことか。

僕と真紀の未来も、きっとそんなものなんだ。どこにも配信されない。どこにも残らない。あのとき、どこかでボタンを押し間違えたせいで、僕たちのストーリーは低評価のまま、世の中から消えていったのだ。

「もしボタンを押し直せるなら?」

そんな馬鹿なことを考えながら、僕は映画のレビューに目を戻した。

「退屈。オチが微妙。期待はずれ。」

……まるで僕の人生みたいだな、と思った。

今日のお題は、「運命のボタン・ストーリー」

(1)https://filmarks.com/movies/7052

 
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