No.2764

題名:今日のお題は、「彼女へのQuestions in a World of Blue」
報告者:ダレナン

(No.2763の続き)
 霧雨の降る夜、僕は一人、バーのカウンターでグラスを傾けていた。氷が溶けかけたウイスキーを揺らしながら、目の前のグラスの向こうに彼女の幻影を見ていた。
 白いドレスに身を包み、少しだけはにかんだように微笑む彼女。あの頃と何も変わらない姿で、僕を見つめている。けれど、幻影はどれほど強く願っても、指の隙間をすり抜けるように消えていく。
 ジュークボックスから流れ出したのは、Julee Cruiseの「Questions in a World of Blue」。僕は息をのんだ。 まるで、誰かが僕の心を見透かしていたかのようなタイミングだった。

 彼女とは、五年前に出会った。
 冬の終わり、薄氷の張った湖のほとりで。
 僕はカメラを手にしていて、彼女は一冊の本を持っていた。
 初めて会話を交わした時から、彼は彼女に強く惹かれた。
 ゆっくりと時間をかけて距離が縮まり、やがて二人は一緒にいることが当たり前になった。
 僕は思っていた。
 このまま、彼女とずっと一緒にいるのだろうと。
 それは、決して叶わない夢だとも知らずに。
 彼女が去ったのは、夏の終わりだった。
 「ごめんね」と言った彼女の顔は、ひどく悲しそうで、どこか懐かしい景色のようだった。
 彼女には、別の人生があった。
 それを知っていたはずなのに、僕は何も言えなかった。
 ただ、風が彼女の髪を揺らすのを見ていた。
 そして、彼女は去った。
 結婚式の招待状が届いたのは、それから半年後のことだった。
 僕はそれを破ることも捨てることもできず、ただ机の引き出しにしまい込んだ。
 「Questions in a World of Blue」が流れる。
 歌詞が僕の心に問いかける。 「Where is the love we once knew?」
 僕は静かに目を閉じた。
 どれほど彼女を求めても、どれほど時間を戻したいと願っても、もう彼女は僕の隣にはいない。
 それでも、夜が深まるたびに、僕は問い続けるのだろう。
 この青の世界で、答えのない問いを。

今日のお題は、「彼女へのQuestions in a World of Blue」

 
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