No.2726

題名:今日のお題は、「今夜も、彼女に奪われる。」
報告者:ダレナン

(No.2725の続き)
 最近、夜が来るのが怖い。彼女と付き合い始めてから、朝起きると首筋が痛く、鏡を見ると小さなあざのようなものが浮かんでいることが多くなった。最初は寝相のせいだと思っていたが、ある朝、パジャマの襟元に赤い染みを見つけたとき、確信した。 「血……?」
 自分が何かわるい病気にでもかかったのかもしれない。実際、この頃、食欲も減り、体力も落ちてきている気がする。職場の同僚にも、「彰吾、お前最近やせたよな。彼女に精気でも吸われてんじゃね?(笑)」なんて冗談を言われたが、笑えなかった。
 不安になり、鏡をじっと見つめる。頬がこけ、目の下には薄くクマができている。こんなにやせていただろうか?そう思った瞬間、背後から優しい声がした。
 「おはよう」彼女だった。
 彼女の瞳はいつも以上に輝いている。つややかな黒髪、透き通るような白い肌、そして、何よりも目を引いたのは昨日僕がプレゼントした赤いリップ。
 「とっても似合ってるよ」 そう言うと、彼女は「うふふ」と微笑んだ。
 その笑顔に見とれていた僕は、ふと、彼女の唇の端にほんのわずかに黒ずんだものが残っていることに気づいた。リップの色が少し違う。まるで、乾いた血のように……。
 その瞬間、背筋が冷たくなった。
 彼女はゆっくりと僕のそばに近づく。白くしなやかな指先が、僕の首筋をそっとなぞる。その指が、まるで確かめるように、昨夜ついたはずのあざの上を撫でた。
 「最近、疲れてる?」
 彼女の声は優しいのに、なぜか心臓が早鐘を打つ。
 「うん……ちょっとね」
 僕がそう答えると、彼女はくすっと笑った。そして、そっと顔を近づけ、甘い香りとともに囁く。
 「大丈夫。私が、ちゃんと元気にしてあげる……」
 彼女の唇が僕の首筋に触れる。その瞬間、ひやりとした感触が走り、次の瞬間、じわりとした痛みが広がった。
 (ああ……まただ)
 意識が薄れていく中、僕は彼女の瞳がますます輝きを増しているのを見た。
 そして、ゆっくりと目を閉じる。
 ──今夜も、きっと彼女にすべてを奪われる。

今日のお題は、「今夜も、彼女に奪われる。」

 
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