No.2705

題名:今日のお題は、「夢のステージ」
報告者:ダレナン

(No.2704の続き)
 俺と智花は、物心ついたときからずっと一緒だった。家が隣同士ということもあり、幼稚園も小学校も同じ。年は俺のほうが二つ上だけど、年齢の差なんて気にならないくらい、いつも一緒に遊んでいた。
 智花は、どこにでもいる普通の女の子だった。泣き虫で、お転婆で、笑うと目が三日月みたいに細くなるのが特徴だった。そんな彼女が、ある日突然「アイドルになりたい!」と言い出したのは、小学校の卒業間際のことだった。
「アイドル?」
「うん!テレビで見たの!歌って踊って、キラキラしてて、すっごく楽しそうだった!」
 俺は正直、アイドルなんて遠い世界の話だと思っていた。けど、智花は本気だった。中学に入ると、ダンススクールに通い始め、ボーカルレッスンも受けるようになった。俺が部活で汗を流している間、智花は鏡の前で必死にステップを踏んでいた。
「そんなに頑張って、疲れないのか?」
「ううん、むしろ楽しい!」
あの泣き虫だった智花が、いつの間にかこんなに強くなっていた。
 そして、高校生になった智花は、大手のアイドルオーディションに応募した。結果は——合格。あの日、彼女が泣きながら俺に報告してきたのを、今でも覚えている。
「お兄ちゃん!私、受かった!」
「……マジで?」
 俺は驚きつつも、心の奥で少し寂しさを感じていた。近くにいた妹みたいな存在が、どんどん遠くへ行ってしまうようで。
 でも、彼女は夢を掴んだのだ。応援しないわけにはいかない。
 デビューの日、俺はテレビの前で固唾をのんで見守った。ステージの上で、智花はまるで別人のようだった。きらびやかな衣装を身にまとい、堂々と歌い、踊っている。その笑顔は、昔から知っている智花のものだったけれど、どこか眩しくて、もう手の届かない場所にいるような気がした。
 けれど、そんな俺の気持ちを見透かしたかのように、テレビの中の智花はカメラに向かって微笑んだ。
「——お兄ちゃん、見てる?」
 俺の胸が、ギュッと締めつけられる。
 ああ、ちゃんと見てるよ。
 これからも、ずっと見てるから。
 そう心の中でつぶやきながら、俺は画面の中の智花を、誇らしい気持ちで見つめ続けた。

今日のお題は、「夢のステージ」

 
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