No.2682

題名:今日のお題は、「夕暮れの船上で」
報告者:ダレナン

(No.2681の続き)

 オレンジ色の光が海を染め、波間に揺れる光の帯がどこまでも続いている。遠くでカモメが鳴き、潮風が頬をかすめるたび、彼女の髪がふわりと舞う。
 「…綺麗。」
 彼女がぽつりと呟く。
 「本当に。」
 僕はそう返したけれど、目に映るものは夕焼けではなかった。

 彼女の横顔。
 風に揺れる髪を、そっと耳にかける指先。
 金色に染まった瞳が、まるで宝石のように輝いている。
 「ねえ、何か言ってよ。」
 くすっと笑いながら、彼女が振り向く。
 「…言葉にならないんだ。」
 彼女は不思議そうに瞬きをする。
 「綺麗すぎて。」
 その一言で、彼女の頬が夕焼けと同じ色に染まった。
 ──ジャックも、こんなふうに見とれたのかな。 ローズが船首に立ち、風を浴びるその姿を。 彼も、ただ息をのんで見つめることしかできなかったのかもしれない。
 「ふふ…なにそれ。」
 彼女が少し照れたように笑う。
 「だって、本当にそう思ったんだよ。」
 その瞬間、ふわりと潮風が吹いた。彼女は目を閉じ、両手を広げる。
 「まるで映画みたい…」
 俺はそっと、彼女の後ろに立った。 そっと、彼女の手を握る。
 「ねえ、ジャック」
 「ん?」
 「絶対に、手を離さないでね」
 彼女がくるりと振り返り、笑う。
 「もちろん。」
 沈む夕日が、僕たちを金色に包み込んでいた。  今日のお題は、「夕暮れの船上で」

 
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