No.2675

題名:今日のお題は、「タイトル:振り返った瞬間」
報告者:ダレナン

(No.2674の続き)
【第一話:春風のいたずら】

 「佐々木くん、今日どこ行く?」
 昼休みになると、僕たちはいつものようにエレベーターに乗り込んだ。会社の総務部にいる藤本恵理さんとは、部署が違うけれど気が合い、何かと昼食を一緒にすることが多い。
 「たまには和食とかどう?」
 「いいね!小町通りの定食屋さん、行ってみたかったんだ!」
 彼女は嬉しそうに笑い、僕たちはオフィスビルを出た。
 春の風がそよぎ、ビル街の間を吹き抜ける。桜が散り始めた道を歩きながら、僕は彼女の後ろ姿を何気なく見ていた。
 すると、突然、恵理さんの髪がふわりと舞った。
 「わっ!」
 彼女は驚いて足を止め、風にあおられて、僕のほうを振り返った。
 その瞬間——
 世界が止まった。
 陽の光を浴びた彼女の髪が金色に輝き、長いまつげの奥で茶色の瞳がゆるやかに揺れていた。そのすべてが、まるで映画のワンシーンのように美しく、僕の心を一瞬で奪っていった。
 「風、強いね……」
 彼女はそう言って笑った。
 「……うん、強いね」
 僕はどうにか言葉を返しながらも、自分の鼓動が異常なほど速くなっているのを感じていた。
 さっきまで、僕にとって彼女は「ただの同僚」だった。
 でも今、この瞬間、風に舞う彼女の姿を目に焼き付けたとき、僕は確信した。
——これは、恋だ。
 それは、昼休みの道端で起こった、ささやかな奇跡だった。

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今日のお題は、「タイトル:振り返った瞬間」

 
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