No.2663

題名:今日のお題は、「夕映えの温泉街で」
報告者:ダレナン

(No.2662の続き)
湾岸沿いの小さな温泉街に、僕たちはやってきた。ひなびた旅館の軒先からは硫黄の香りが漂い、遠くでカモメの鳴き声が聞こえる。波の音が静かに寄せては返し、潮の香りがほんのりと鼻をくすぐった。

「ねえ、あれ見て」
彼女が指差した先には、茜色に染まる空と、それを映す静かな海。太陽はゆっくりと沈みかけ、海面には金色の光が揺らめいていた。

「すごい…」
思わずつぶやく。美しい。けれど、それ以上に、夕日に照らされた彼女の横顔が、息をのむほどに綺麗だった。

せっかくの景色だから、と彼女をほとりに立たせて写真を撮ることにした。夕日のオレンジが彼女の頬を染め、柔らかい風が彼女の髪をそっと揺らす。ファインダー越しに見つめるその姿は、あまりに愛おしかった。
カシャ、とシャッターを切る。でも、次の瞬間にはカメラを下ろし、気づけばそっと彼女を抱きしめていた。
「…どうしたの?」
驚いたような彼女の声が、胸の奥に響く。

「いや…ただ、すごく好きだなって思って」

腕の中の温もりが心地よくて、ずっとこうしていたかった。彼女は少し照れたように笑いながら、小さく「ばか」と呟く。でも、その手は僕の背中にそっと回されていた。

波の音と、夕焼けの光に包まれながら、僕たちはしばらく動けずにいた。

今日のお題は、「夕映えの温泉街で」

 
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