No.2164

題名:”僕の”話を
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.2163の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 単純な光の影響かもしれないが、外の世界はまばゆいばかりの明るさに満ち溢れていた。
 産まれた時は、誰もがそう思うのだろうか。それとも、誰もがそうは思わないないのだろうか。だが、産まれたての僕は、そこに人生の希望を感じていた。
 その一方で、俺が分かっていることは、希望は年とともに失われていく。それも指数関数的に。
 今日は西暦で言えば1982年10月11日。マヤ暦:ツォルキン暦:12チュエン・ハアブ暦:4ヤシュ・長期暦:12.18.9.6.11。母の面影の懐に抱かれながら、正確に計算するとそうなる。
 ただし、ここはすでに20世紀。俺がいうマヤの世紀と大きく時代背景が異なる。現世紀では、永遠のいけにえなど存在しないはず。
 「俺は決して意味のないいけにえではない!」

 妻の舞衣子が僕が急に発した言葉にきょとんとしていた。その後に少しづつ不安の顔が濃くなる。僕は、

「なんでもない。なんでもないんだ。どうやら、ぼーっとしていたみたい」
「バファリンの効果が効き始めたせいかもしれない」

 そう伝えた。自分が気づかない間に意識がどこかにトリップしていたようだった。僕が僕でない、不思議な感じだった。誰かが僕の内から叫んでいる。
 ただ、僕が伝えたバファリンの効果の言葉に、舞衣子の表情が次第に安堵に変化する。そんな舞衣子に少しづつ正確に”僕の”話をした。変に話が歪曲しないように”僕の”話を。

平十郎:「僕の前世は、どこに住んでいたんだろうか。もしかして、マヤ時代の誰かかな…?」。するとすかさず、舞衣子は言う。

舞衣子:「そんなことあるわけないじゃん…、たぶんね。そうね…、もしかしてお父さんの前世は…、映画監督…なんてね。大学時代に映画研にいたんだよね…。うーん、もしかしてそれって、感覚的に前世はフェデリコ・フェリーニだったりして…?」

平十郎:「そんなわけないじゃん。僕が産まれた時、彼は生きていたわけだし…」

舞衣子:「いや、分かんないよ…。魂が乗り移るってこともあるもん。だって私、フェデリコ・フェリーニ大好きだからね…」

 舞衣子はそう言いながら、少し顔を赤らめていた。

 
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