No.2088

題名:子牛のもうもうが昨日生まれた。
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.2087の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 執筆しつつなんだかこのままではどうにもならない霊異記(りょういき)になりそうだった。もうすでにもとの物語は破綻しているぞ。ぐだぐだと述べてるだけじゃねーか。誰も読まないだろうし、自分すらもう読み返してはいない。まさに黄泉返しだ。いっそのこと、霊界の物語にするか、もう。牛の霊界の物語もいいもんだべ。もう。

 子牛のもうもうが昨日生まれた。生まれてすぐに立ち上がり、そしてもう、と鳴いた。その誕生の姿に僕は泣いた、もう。
 
 いや違う。これじゃない。またも反省して、ジェニファーとの別れた時のことを書かねばなるまい。もう、でも、随分と昔のことだから、やっぱ忘れてる。情景も、心情も。そしてその時の会話もセリフも。
 では、どうして書けばいいのか。実際に自分の身の上に起こったことを書かなければ、誰も皆々様が安心して読みたいと思う物語にはならないだろう。
 物語のリアリティは身の上から起こる。
 だから、必死に思い出そうとしている。あの自分が留学していたアメリカ時代のことを。いま、必死に思い出そうとしている。でも、やはり時間とともに頭の中も風化しつつある。頭頂とともに、必死に登った頂上は風が吹きすさび、そして大きな巌も風化させる。巌…? なんだ、巌って。巌窟王…? そういえば、そんな物語もあったな。巌窟王、内容が思い出せない。巌窟王…巌窟王…g
 眠気が若干襲ってきた。コーヒーでも飲んで、そろそろ午後の診療にあたらなければならない時間帯だ。でも、猛烈に眠い。なんなんだこの眠気は。
 でも、Demo、最近Demoが多いような文体だな。まっ、文体を試すためのDemoみたいなもんだからな。ここは…。
 コーヒーを飲んでも眠気は一向に変わらない。飲めば飲むほど眠くなる。そうして私は体調が悪いせいにして、本日の午後の診療は休むことにした。代わりに、最近、医局に来た北医師にここは全てまかせよう。もう、八度まもるの件が片付いたら、私はそろそろ隠居したほうがいいのかもしれないな。今では北医師のほうが何かと期待師のようで看護師にも評判がよい。
 眠気はあっても食い気もある。お腹がそれほど空いていないのに、無性に何かが食べたくなる。
 (いつものイタリアンレストランへと向かうか…)
 駐車場に行き、私の愛車であるAudi R8 Coupe V10のドアを開け、シートに腰をおろした。心地よく体を包むそのバケットシートは、私にいつもの安堵感を与えてくれた。
 エンジンを始動すると、Audi特有のV10の咆哮がした。これを耳にすると、自らの血が騒ぐのが分かる。
 そっとアクセルを吹かし、駐車場を飛び出して、私はラ・バン・ビエッタへと向かった。
 店に入ると鍋島シェフが出迎えてくれた。彼に「いつものやつを」と頼んだ。シェフは軽くその言葉にうなずき、厨房へと足を運んだ。

 
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