No.2074

題名:こっちの世界とあっちの世界
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的に No.2073の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 花見医師から一通りの説明が済んだ後、僕は看護師さんに連れだって部屋に戻ることになった。アクリル板の向こうで妻は手を振ってくれた。でも、アクリル板でそこで仕切られた向こうは、まるで別の世界のように思えた。
 僕はこっちの世界に来た、でも、妻はあっちの世界に留まっている。
 
 妻の八度美幸は花見英明医師から詳細な僕の現在の症状について説明を受けた。
「八度まもるさんはよくプラひものことを相棒と称して、それが目の前に存在している物であることを超え、人がそこに居るかのようにおっしゃいます。薬でその訴えは少し収まったかのように思えていたのですが、ここ最近それがひどくなっているようです。そのこともあり、今回電気けいれん療法について提案させていただきました。奥様はそのプラひもなる相棒のことに関して何か内情をご存知でしょうか?」
 妻は、かつての僕がイベント会社時代の事業を行っていたこと、破綻した経緯について知っている限り話した。そして、彼の仕事の相棒には矢田部圭史という人が居たことも話した。
「なるほど、そういうことでしたか」
 花見医師は妻の話を聞いてカタカタとキーボードをたたき、それらをカルテに記載した。そして、ディスプレイ上のカルテを僕の脳画像に切り替えた。
「奥様、ここを見て頂けますか」
 花見医師は妻にディススレイ上の画像を見るように促した。
「本来ならここの部分の活動が盛んなはずですが、八度さんの脳画像ではこの部分の活動がかなり低下しています。通常は…
と言いながら別の画像に切り替えた。
「通常は、薬の投与によってこのように脳活動が改善されますが…
と言いながら再び別の画像に切り替えた。
「八度まもるさんの場合は、このように1、2ヵ月薬を投与し、その種類を様々に組み合わせてカクテルしてもこのようにほとんど変化が見られません。その代わり…
と言いながら今度は紙面でイラストを描き、ディスプレイ上の画像と照らし合わせ、
「こことこことの脳活動の結びつきがかなり活発になっています。このことによってたぶん奥様が先ほど言われたかつての相棒の方とプラひもとが同じ存在として結びついている可能性が高いと考えられます。電気けいれん療法は、これらの部分的な結びつきを改善することになります。
 電気けいれん療法に伴う安全性は確保されます。しかし、100%の確率でもって治療できる、改善されるという保証は正直なところありません。我々も最善を尽くしますが…」
 そして花見医師は、妻の方を見直して改めてこう告げた。
「もしかしてですが、八度まもるさんは、幼い頃に事故か何かで脳にダメージをもらったとという話を聞いたことはありますでしょうか」

 
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