No.2070

題名:この世から僕は消えたかった
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的に No.2069の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 スプーンに乗ったゼリーのそのPurpleに輝く姿態は、ゼリーという概念を超えて僕の記憶にやはり思い出させる何かがあった。そうだ、僕の目で見る世界はある時を境にしてPurpleに変色し、その他の色が見えなくなっていたことを少しずつ思い出していた。

 その当時、僕はごく小さなイベント会社を経営していた。僕と大学の経営学科の友人である矢田部圭史とともに起こした会社だった。最初の1年間はうまく運営がこなれなかったものの、僕の企画力とそして相棒の矢田部の卓越した経営センスで次第に都内に会社の名が知られるようになった。そして、1年を超えたあたりで口コミが相をなしたのか、会社の収益も順調に増えた。先に見えたのは、僕たちの輝かしい未来だった。
 次第に業務が手狭となり、従業員も事務の女性2名を雇うまでになった。そして僕たちが卒業した大学のつてで大学生のアルバイト1名も加わるまでに僕たちの会社が大きくなりはじめたことを実感した時期だった。同時に会社の経営も軌道に乗り始めた。計5名にまで経営として膨れ上がったものの、仕事に事欠くことなくすべてが順調で潤沢な時期だった。あの時は。
 その未来の行く末に影を落としたのが、今回の新型コロナウイルスの騒ぎだった。そうだ、2020年4月頃から徐々に弱小であった企業の僕たちのイベントの多くがクローズを求められた時期だ。そして、それに応じて会社の収益が徐々に、本当に徐々に途絶え始めたのを感じた。
 まずアルバイトへの収益が払えず、彼にはやむを得ず会社のアルバイトをやめてもらうこととなった。
 そして、次第に事務の2名もやはり給料が払えなくなり、涙ながらに彼らを解雇した。
 残されたのが僕、八度まもると、大学からの相棒の矢田部だった。
 僕たち二人はこの状況にめげずに、新型コロナウイルスの状況に対抗すべく、いろいろな方向を模索した。イベントの人数を制限したり、あるいはオンラインを併用したり、様々な方法で何とか経営を潜り抜けた。しかし、もともと弱小で、規模が小さい我々の会社は、次第に顧客から見向き去れなくなることも多くなった。収益は目に見えて下がっていった。その結果だろうか…。
 ある日のこと、僕の目の前から信頼していた相棒の矢田部が消えた。本当に僕の目の前から消えた。しかも、会社の資本をすべてを奪って、だった。

 その時から僕の目の前の色彩がPurple色だけに染まることが多かった。仕事に対してはもちろんの事、何を見ても感動がない。この世の中が変わり始めたことに、僕は次第におかしくなっていることに分かりつつも、どうにもならなかった。世界一面がまるでPurple一色だった。
 妻にそのことを正直に打ち明け、僕は会社を破産宣告という名目で終えた。幸いなことに妻の本来のあるいは職業的なとも言えるやさしさで、僕はなんとかこの時期をやり過ごすことができた。でも、目の前のPurpleは変わらない。世界はPurple一面、という認識は変わらず、僕は次第に家にこもることが多くなった。妻も僕のその様子に心配していたが、僕には、”もうこれ以上、何かをする、何かをしたいという気持ちが心底亡くなっていた”。無くなるだけじゃない。僕自身が亡くなっていた。この世から僕は消えたかった。

 
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