No.2069

題名:Red Grapeなるゼリーの記憶
報告者:ダレナン

 賞味期限がもうすでに6か月を過ぎたゼリーが冷蔵庫のチルド室の奥から発見された。それは2024年の夏のことであった。逆算するとそのゼリーは4年前の僕たちが引っ越しの際にもらったものである確率が高かった。ただ、食べずにほっといたのは、ゼリーがあまり好きではない。その一点に尽きる。
 最近のゼリーはさほど甘くもなくおなかにもたれることもない。ただし、そのちゅるんとした食感は何とも言えず歯ごたえがなく、それを食べると食感とともに僕にはあのどん底の当時の記憶を蘇らせた。僕が鬱でしばらく入院していたあの時の記憶だ。

「八度まもるさん、食べないと体がますます弱りますよ。せめてゼリーでも食べましょうか…」

 看護師さんの言葉が今でも耳に響く。

 同じく看護師である妻があの時の僕の異変に気付かなければ、今の僕はここにいなかったかもしれない。いや、かもしれないではなく、そうだろうだ。今でも、僕は、時折、縄の誘惑に首を取られそうになる。でも、すでにもう以前ほどの衝動性は影を潜んでいた。
 当時の僕は、縄に首を取られる直前に妻に無理やりに近い状態で受診できた。あの日、妻が早番でなければ、僕はきっと部屋で宙ぶらりんになっていた。そして口や尿道、それに肛門からありとあらゆる汚物を吐き出し、僕の人生はそこで終わっていたはずだ。

 診断で鬱ということになり、薬を処方され、療養を余儀なくされた。その後、数か月間はあまり記憶が残っていない。

 僕にとって2021年から2024年にかけての空白の1年間。

 仕方なく僕はチルド室から賞味期限がとうに切れているそのゼリーを取り出し、記憶を思い出すことを覚悟で食べることにした。最近は体調もほどよい。食べても大丈夫だろう。そのゼリーのパッケージを確認すると、そこにRed Grapeと書かれてあった。
 ゼリーの蓋をまくった。意外にもそこはつるつるいっぱいのゼリー(よくあるゼリーは蓋のところまでつるつるいっぱいに封入されている)とは違い、蓋とゼリーの表面の間には3mmか4mmほどの空間が開けられていた。そのため、ゼリーの液体をこぼすことなく、僕は蓋をまくることに成功した。
 中を見ると、Redとパッケージにあったにも関わらず、色はPurpleっぽかった。
 3種類のスプーン、一つはかなり持ち手も小さく、全体にも小さいもの、一つは持ち手がまっすぐで、皿の部分が浅めのもの、そして最後の一つは柄の部分が程よく曲がり、皿の部分が少し深めのものの中から、僕は最後の一つを選択した。それがゼリーを食べる際にベストのスプーンであるようにそ思えた。
 スプーンをゼリーの中に入れると、まったくの抵抗なくスッーとゼリーを分断することができた。スプーンで持ち上げたそのゼリーに光をかざすと、間違いなくPurple色に輝いていた。Redではない。Purpleにだ。

 
pdfをダウンロードする


...その他の研究報告書もどうぞ