No.1953

題名:ぽとんと水晶玉
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的に No.1952の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 先ほどまで路地の奥にいたと思っていたその占い師は、気配なく僕の背後に立ち、「あなたを占わなければならないの….」と告げた。そのカゴメカゴメな状態にケチャップしたが、実際はマヨネーズだった。
「あなた、そのエコバックに入っているの…、間違いなく恋マヨネーズよね」
「はい、濃いマヨネーズですけど…」
「で、それで、その字の変換は、故意なの、それとも過失なの、と問いたいわけよ、わたしは」
「故意です」
「でもさ、恋マヨネーズのくだりを見てごらんなさい。見返してごらんなさいよ!」
 20代なかばと思しき若い女性の占い師であったが、急に声を荒げてややハスキーボイスで僕に告げた。
「ほらっ、ここよ」
 そうして、僕は、彼女が指さす僕の文章の個所を見返した。
(はっ…)
「どうやら気がついたようね。ようやく気がついたんでしょ? 自転車と自電車と、見事に間違ってるわ。これも故意なの、それとも過失なの!」
「過失です。最近、のどがイガイガしてるので…」
「じゃあ、それなら加湿、器が必要ね」
「そうとも言います」
「って、違うでしょ! ほんとにも~。やっぱり過失だったのね。そこで、あなたを占わなければいけないと感じたの。あなたには、そう、誤変換の災難が、顔に如実に表れている」
「ごへんかんのさいなん…、かおににょじつ…」
「間違っているのにもかかわらず、それが正しいと思い込んでしまう。そういう如実な災難よ」
「にょじつなさいなん…」
「そうよ! にょじつなのよ…。あなたは…。じゃぁ、ちょっとあそこまで来てもらえるかしら? 詳しくあなたのその災難を占ってあげるから、ほらっ!」
 その占い師は、今度は先ほどまで座っていた路地の奥の占いのテーブルを指した。彼女は僕の手首をぐっとつかみ、そのテーブルまでなかば強引に引っ張っていった。かなり腕力がある。もしかして、なんだか新手のぼったくり…? 過去の苦い経験を思い出した。
「あらっ、そんな不安そうな顔をして。ぼくちゃん、気にしないでいいわよ。あなたなら、ただで、占ってあげる。なんせ、珍しい災難の相が顔に出ているからね~」
「ぼくちゃん…って」
「おだまんなさい!」
「はい…」
 僕は彼女に引きずられるようにテーブルまで行き、そしてそこで肩の上からどんと叩かれ、どすんと椅子に腰を下ろした。彼女はすとんと目の前に座り、ぽとんと水晶玉を取り出した。

 
pdfをダウンロードする


地底たる謎の研究室のサイトでも、テキスト版をご確認いただけます。ここをクリックすると記事の題名でサイト内を容易に検索できます。



...その他の研究報告書もどうぞ