題名:ぽとんと水晶玉
報告者:ダレナン
本報告書は、基本的に No.1952の続きであることを、ここで前もってことわりたい。
先ほどまで路地の奥にいたと思っていたその占い師は、気配なく僕の背後に立ち、「あなたを占わなければならないの….」と告げた。そのカゴメカゴメな状態にケチャップしたが、実際はマヨネーズだった。
「あなた、そのエコバックに入っているの…、間違いなく恋マヨネーズよね」
「はい、濃いマヨネーズですけど…」
「で、それで、その字の変換は、故意なの、それとも過失なの、と問いたいわけよ、わたしは」
「故意です」
「でもさ、恋マヨネーズのくだりを見てごらんなさい。見返してごらんなさいよ!」
20代なかばと思しき若い女性の占い師であったが、急に声を荒げてややハスキーボイスで僕に告げた。
「ほらっ、ここよ」
そうして、僕は、彼女が指さす僕の文章の個所を見返した。
(はっ…)
「どうやら気がついたようね。ようやく気がついたんでしょ? 自転車と自電車と、見事に間違ってるわ。これも故意なの、それとも過失なの!」
「過失です。最近、のどがイガイガしてるので…」
「じゃあ、それなら加湿、器が必要ね」
「そうとも言います」
「って、違うでしょ! ほんとにも~。やっぱり過失だったのね。そこで、あなたを占わなければいけないと感じたの。あなたには、そう、誤変換の災難が、顔に如実に表れている」
「ごへんかんのさいなん…、かおににょじつ…」
「間違っているのにもかかわらず、それが正しいと思い込んでしまう。そういう如実な災難よ」
「にょじつなさいなん…」
「そうよ! にょじつなのよ…。あなたは…。じゃぁ、ちょっとあそこまで来てもらえるかしら? 詳しくあなたのその災難を占ってあげるから、ほらっ!」
その占い師は、今度は先ほどまで座っていた路地の奥の占いのテーブルを指した。彼女は僕の手首をぐっとつかみ、そのテーブルまでなかば強引に引っ張っていった。かなり腕力がある。もしかして、なんだか新手のぼったくり…? 過去の苦い経験を思い出した。
「あらっ、そんな不安そうな顔をして。ぼくちゃん、気にしないでいいわよ。あなたなら、ただで、占ってあげる。なんせ、珍しい災難の相が顔に出ているからね~」
「ぼくちゃん…って」
「おだまんなさい!」
「はい…」
僕は彼女に引きずられるようにテーブルまで行き、そしてそこで肩の上からどんと叩かれ、どすんと椅子に腰を下ろした。彼女はすとんと目の前に座り、ぽとんと水晶玉を取り出した。