No.1906

題名:分身
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1905の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 果ててから、僕たち二人はしばらく呆然としていた。すべてを忘れるかのように忘我の境地に立っていた。傍らでくっくどぅーどるどぅが掘りあてた白銀の湯なる温泉は、こんこんと沸きだし、煮沸するかのような熱い湯があたり一面に激しく散らばっていた。
「やった、はくぎんのゆをほりあてちゃんだ、ぼきゅは。やったじょー、ちゅいにやったんだじょー」
 つるはしを両手に掲げながら、彼はダンスしていた。くねくねと踊る奇妙なダンスだった。その奇妙さは彼(ヒヨコ)の運動神経を端的に表しているかのようだった。TikTokにしろ、Instagramにしろ、Youtubeにしろ、ダンスの上手な人はたくさんダンスの動画をアップロードしている。でも、意外と奇妙なダンスは目を引いた。上手ではないが、奇妙だ。彼のダンスは、そんな類のダンスだった。
 くっくどぅーどるどぅが、踊ってる。
 「タケヒサさん、すごくよかった…」
 クミちゃんは、そうつぶやいた。僕もそうだった。
 大好き人と結ばれるのは、肉体だけではない。心もつながるんだ。それを実感していた。
 「あったかい…」
 「うん。そうだね」
 しばらく僕たちは抱き合い、見つめ合った。そしてそのまま自然と眠りに入った。心地よい眠りだった。お互いがお互いで、それらの互いの肌で包まれている。未だかつて、それほど温かい布団はなかった。
 再び目を覚ましてから僕たちは接吻し、そしてまた交わった。その後も、寝ては目を覚まし、何度も何度も交わりながら、僕たちはこの先どこに行きつくのだろうかと僕自身で問うた。解はなかった。それでも、分かったことは、僕たちはお互いが必要としていたことだった。僕もクミちゃんもお互いを激しく求めていた。
 その間、時折の眠りの間、断片的に夢を見た。彼”くっくどぅーどるどぅ”の夢だった。その隣には”くっくどぅーどるどぅ”と同じ名札を付けたヒヨコがいる。たぶん、メスのヒヨコだ。彼がオスなら、彼女はメスだ。もしかして、このメスはクミちゃんなのだろうか、と僕は思った。ヒヨコの特徴がクミちゃんにとてもよく似ていたからだ。顔の輪郭、愛らしい目元と口元。存在感のある耳。そして、凛と通った鼻筋。右目の涙袋の下にある特徴的なほくろ…。それのいずれもが彼女に備わっていた。ヒヨコなのにクミちゃんに瓜二つだった。
 ヒヨコの僕は、横を向いて、そのヒヨコの彼女に話しかけた。
 「くみしゃん…だいしゅきだよ」
  彼女はこちらを向いて羽をパタパタとしながら、にっこりと微笑んだ。うっすら眼が開いた時、そこに本当のクミちゃんが居た。クミちゃんも、同時に目を開けて、にっこりと微笑んでいた。
「わたし、今、夢を見てた。タケヒサさんがヒヨコで、わたしもヒヨコだったの。何だか、変な夢だったな。そのタケヒサさんらしきヒヨコが、”くみしゃん”って呼んでるの」、「ふむふむ…」、「それでね、正直に言うと、実は、以前から同じような夢を何回も見たことあったんだ。そのヒヨコ、いつも”くみしゃん”、 ”くみしゃん”って呼ぶから、それが一体誰なのか今まで分からなくて…」、「ふむふむ」、「もしかしてそのヒヨコ、タケヒサさんの分身? なんてね…。今、そう思っちゃった」

 
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