No.1905

題名:白銀の湯
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1904の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 肌を確かめると、クミちゃんがそこに居るのが実感できた。僕とクミちゃんの肌が溶け合うように、僕はクミちゃんのあらゆるところをまさぐった。
 ずっと離れたくない。クミちゃんのことが大好きだ。とっても大好きなんだ。
 時折、もらす吐息は、特別なにほひは、僕にその想いを強くさせた。
 再び、僕は顔を上げて、クミちゃんを見つめ直し、その唇に唇で触れた。薄暗い明かりの中で、クミちゃんはにこりと笑い、「タケヒサさん、大好き…」と抱き着いてくれた。それに呼応するかのように、僕もぎゅっとクミちゃんを抱きしめた。
 このまま離れたくない。
 そう思った。
 「僕は、今、とってもしあわせだ…」
 「わたしもよ…タケヒサさん…」
 そのまま僕たちはしばらく抱き合っていた。窓の外には月明かりが見えた。とても大きな月だった。
 ぴったりと密着していた僕たちの肌は、まるで一つのつながりのように思えた。そこに何も隔たりはない。僕は、命を救ってくれたクミちゃんを、改めて精いっぱい抱きしめた。
 抱きしめ合いながら、お互いの体を何度も何度も確かめ合っていた。
 しばらくするとクミちゃんは「タケヒサさんが、欲しい…」と言った。そうだ。実は僕も、クミちゃんのことが欲しくて欲しくてたまらない。
 その時、部屋の奥で二つの小さな明かりが灯っていたのが見えた。よく見てみると、それはヒヨコの二つの目からの明かりだった。僕の眼が正しければ、眼の奥の僕の認識が正しければ、そのヒヨコはあの”くっくどぅーどるどぅ”に間違いなかった。薄明りで名札がよく見えなかったが、彼はくっくどぅーどるどぅだ。そして彼の右手にはつるはしが握られていた。
「ぼきゅは、いまからおんしぇんを、ほるんだ」
「温泉、伊香保で?」
「しょう、おんしゃんをほって、はくぎんのゆをしゃがしあてるんだ」
「白銀の湯を?」
「しょう」
 彼が、床をかちんかちんと掘る音が耳元で鳴り響いた。ふとクミちゃんを見ると、そんな音は聞こえていないようだった。ヒヨコの存在も見えていないようだった。でも、そこには限りなく、クミちゃんの吐息が舞っていた。その舞に、待っていたかように、僕は、クミちゃんと結ばれたいという欲望に素直に身をゆだねた。
 クミちゃんと結ばれると、僕は、その暖かく包んでくれるクミちゃんに翻弄された。それに合わせるように、くっくどぅーどるどぅも、けんめいに、つるはしを、掘っては持ち上げ、掘っては持ち上げを繰り返した。
 そして、かちんと最後の音が鳴り響くと、びゅすいーとつるはしの先から温泉が沸きだしているのが見えた。
 それと同時に、僕もクミちゃんの中で果てた。

 
pdfをダウンロードする


地底たる謎の研究室のサイトでも、テキスト版をご確認いただけます。ここをクリックすると記事の題名でサイト内を容易に検索できます。



...その他の研究報告書もどうぞ