No.1900

題名:僕たちの神さま
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1899の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 「クミちゃん。来週じゃなく、今すぐ温泉に行こう。緊急事態なんだ。僕には、もう、クミちゃんしかいない。クミちゃんと一緒じゃないと僕はどうにかなりそうなんだ。今すぐ温泉地に行こう」
 クミちゃんの手を握りながら訴えた。少しばかりどうしていいか迷っていたクミちゃんだったが、すぐに、「タケヒサさん。ちょっと待ってて」
 そういって、クミちゃんは奥に消えた。かと思うと、すぐにその後に、「タケヒサさん。大丈夫。行こう…、わたしの都合は、何とか説明してきた。大丈夫、落ち着いて」、そう言いながら、クミちゃんが駆けつけてくれた。僕は素直に「ありがとう」というと、大粒の涙がこぼれた。「大丈夫。大丈夫よ」とクミちゃんはなだめてくれた。その時、僕は、自分がどこかに消えそうな自分が、クミちゃんによって、ここに留まれた気がした。ここに。
 その後、僕たちはすぐに地下鉄に行き、新幹線、電車と乗り継いで伊香保温泉へと向かった。渋川駅に着くと、僕の心は随分と落ち着きを取り戻せていた。クミちゃんは、僕の気持ちを知ってか、ずっと僕の手を握ってくれていた。
 人とつながれることが、これ程までにうれしいんだ、と、僕は初めて感じていた。
 僕は、留まっている。
 伊香保温泉行のバスに乗り、僕とクミちゃんは、手をずっと握りあいながら、車窓を眺めていた。仕事よりも大事なことが見つかった、そんな気がしていた。
「僕は本気なんだ。クミちゃんに…」
「浮気じゃないんだよね」
「うん、そう。本気なんだ」
 クミちゃんはちょっと窓の方を向いて、恥ずかしそうに外を眺めていた。
(僕は、本気なんだ)
「クミちゃん…」
「ん…」
「大好きなんだ。クミちゃんのこと…」
「うん…♡」
 僕たちはお互いにぎゅっと手を握りしめ、そして僕は何もかも忘れていた。仕事のことも、そしてシズコのことも。そして、何よりも今ここに居る目の前のクミちゃんだけに意識を集中していた。
 伊香保温泉に着いてから、いろいろなところを二人で観光した。ロープウェイ、河鹿橋、水澤観音。やがて、日が暮れはじめ、石段街のライトアップを見ながら、僕たちは旅館を決めた。
 幸いなことに平日だったため、その日の泊りを比較的簡単に取ることができた。どうしようか迷った挙句、二人で相談して、三日間ここに滞在することにした。いわば二泊だ。受付後に、受付の人に二回礼をし、僕たちの手は二泊に向かって進み始めた。最後に部屋まで案内してくれた人にもう一回一礼をした。二礼二泊手一礼、そのもの。そうだ、僕たちの神さまは、今ここに留まっているんだ。

 
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