No.1897

題名:その愛の痛み
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1896の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 東京駅で地下鉄から上越新幹線に乗り換え、高崎駅まで向かった。僕は、幹内でスマホしながら、伊香保していた。「伊香保(イカホ)の名前の由来をご存知ですか? その語源は、アイヌ語のイカホップ(たぎる湯)から来ているとか、上州名物のイカズチ(雷)と、燃える火(ホ)と関連がある等と伝えられています。」1)とある。たぎる湯ならば、チキンラーメンもいけるかもしれない。ふとそう考えた。
 特にトラブルがなければ、もちろんそれは新幹線だが、正味50分ほどで高崎駅に着く。
 伊香保温泉に行くのは何年ぶりだろうか。そういえば、クミちゃんと調査という名の旅行も伊香保温泉だったっけ。「会社のGo To 温泉地のキャンペーンで、伊香保温泉まで行くことになった。」とシズコに嘘を告げたことも思い出した。
 車窓を眺めながら、バックからハイネケンを取り出して、飲んだ。しばらくするとわずかな眠気が襲ってきた。少しばかり目をつむり、Bluetooth ワイヤレスイヤホンを耳に挟み、Thursday Afternoon(木曜の午後)をこれでイーノとばかりに耳に流した。
 しばらくそのまま眠っていたようだった。突如、幹内の、高崎駅に着くアナウンスに目が覚めた。Bluetooth ワイヤレスイヤホンからは、その流れを断ち切るようにThrough The Painとして、シズコの痛みに似た声が頭の中で響き鳴っていた。

She told me
She showed me …
Could you realley love her through the pain?

 僕は本当に愛していたのだろうか? シズコのことを、クミちゃんのことを。その愛の痛みをも…。

 そして遅々としてなかなか進まない執筆をも呪った。明らかにここでの文章に勢いがないと自覚している。新幹線は最高時速300km以上だ。でも、僕の頭の中は遅々として進まず、時速300kmどころか鈍行列車よりも相当に遅かった。どうすることもなく、その鈍行な流れに沿って、ここでは筆を、キーボードを進めるしかない。カタカタと。
 新幹線を降りる時に、何かを忘れた気がした。一流という名の幻想。そうだ、僕は一流ではない。時には、筆が進まない時は、テキトーに流せばいい。そうして、ここでテキトーに流す。
 「いいんだよ、それで」。都合よく天からの声も聞こえた。
 駅に降り立ち、僕は急ぐこともなくプラットフォームの椅子に腰かけ、行きかう人々の様子を観察した。この人にはこんな人生があったのだろうか、この子にはこのような人生が待っているのだろうか。歴史は繰り返し、繰り返し、そして繰り返す。その中で、僕が存在しているこの時間帯には何か意味があるのだろうか。

1) https://www.ikaho-kankou.com/aboutikaho/history/ (閲覧2020.11.21)

 
pdfをダウンロードする


...その他の研究報告書もどうぞ