No.1891

題名:“豊かでなめらか、そして温かみのある声”
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1890の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 次の日に出社すると、臨時の人事異動の交付があった。僕は営業2課に配属されていた。サメジマさんは課長に昇格していた。人事的には僕は降格で、サメジマさんは昇格だった。そして、僕がかつて担当した新人は、営業2課の係長になった。いわば彼は、僕の上司になったわけだ。その他の2課の周りもすべて彼の息がかかった人物ばかりだった。
「えー、今日から営業2課の係長になった、フジイです。宜しくお願いします…」
軽く彼の自己紹介の後、僕は彼、フジイのデスクに呼び出された。そして、「まっ、タケヒサもがんばってな、ふふっ」と嫌味な笑いとともに捨て台詞を残した。その後、サメジマさんは「こういうこともあるわな。以前のお前なら、きっと大丈夫だよ」と肩をポンと叩いてくれた。
 それから僕にはほとんど仕事が回らなかった。回ってもやっかいな顧客回りばかりだった。会社は、フジイは、間違いなく僕をつぶしにかかっている。

ぼきゅも、いずれは、ころしゃれるんだ。

 ニワトリの軍隊の中で、僕は銃を放つことができなかった。やっかいな顧客回りは、いわば成績には結びつかないものばかりだった。僕は、営業2課では、完全に銃に打たれる役だった。かつて僕が放っていた銃は、もう手元にはない。僕は、すでに獣ですらない、ヒヨッコだった。ヘリの音が聞こえ、着陸したヘリから降りてくる軍曹に、お前は第2部隊で続行だ、と言われた気がした。死ぬまで働け、そう言われた気がした。

くっくどぅーどるどぅ

 だんだんと僕の中には人を思う気持ちや配慮が欠けていった気がした。いやな顧客回りを繰り返すと、その精神が自分にも乗り移っていった。自業自得になり、かつての僕の正義感は、どこに行ったのだろうかと思えた。そして、ただ、ただ、会社と自宅の往復。会社と意地悪い顧客での応対。それを繰り返し、繰り返す。心底、疲れていた。
 それから数か月のこと、ある日、受付から感じるなんとなく華やいだ雰囲気に気づいた。それはかつての僕で、今の僕が忘れていた輝きだった。フロア自体はいつもと全く同じだった。入ると相変わらず自分の気が滅入る。帰りたい。でも、受付のところを通るたびに、「おはようございます」と、“豊かでなめらか、そして温かみのある声”が聞こえる。その声にふと僕は顔を見あげると、そこにいたのがクミちゃんだった。
 戦場で出会った一輪の花のように、僕はクミちゃんを一凛の花に置き換えた。
 単なる輪ではなく、凛としてそこに咲いている。
 受付の妖精のように、そこに留まっている。
 それはかつての妻シズコから受けた影響でもあり、それとは異なる種類のものだった。
 でも、何かが結びついていた。

 
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