No.1884

題名:暗闇の向こうから
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1883の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 朝になり僕は目が覚めた。しーんと静まり返った朝だった。いつもなら、カチャカチャと朝食の準備をする音やゴトンゴトンと洗濯機の回る音がする。でも、今日はやけに静かだった。キッチンに行くと、そこに妻はいなかった。そっと、妻の部屋を覗いた。まだ、布団の中だった。
「どうしたの、体調悪いの?」
「少しだけ…」
「風邪?」
「そうじゃないけど、疲れているみたい。今日、会社休む」
「分かった。代わりになんか朝食作ろうか?」
「ほっといて」
「でも…それじゃ…」
「いらないから、ほっといてよ」
 妻は布団をかぶり、僕と反対の方向を向きながら、それ以上何も言わなかった。
「じゃぁ、仕事に行ってくるよ」。
 外に出ると、秋の気配を感じた。季節的に、かなり寒くなっていた。その寒さに、ぞわっと、ニワトリ並みの鳥肌が出ていた。そのニワトリの肌は、僕に昨日の夜の奇妙な夢を思い出させた。出社前にスマホを確認したら、会社から着信が多く入っている。日付を見ると3日経っている。どういうことなんだろうか?

 会社に入るとフロアにはクミちゃんがいなかった。日付から今日は出社している日のはずが、どうしたんだろう。代わりの受付の子に聞いてみた。「クッ…ワカモト・クミちゃんは、今日はお休みなのかな?」、「そうみたい。風邪ひいたって聞いた。それで、代理で今日一日、わたしが受付するの。えーっと、お名前は」、「営業のタケヒサ・ダリオです」、「タケヒサさん、おはようございます」、「おはよう…」。
 たぶん、たぶん昨晩だが食事会の時は何ともなかったのにどうしたんだろうか。心配になった。連絡を取ろうかと思ったけど、そこで初めて彼女の連絡先を知らなかったことに気づいた。そういえば、彼女とは、LINEすら交換していない。LINEのホームを眺めていると、妻の名があった。妻も風邪で寝込んでいる。そこで、妻にスタンプを送った。すぐに返事はこなかった。きっと寝込んでいるんだろう。そう思った。
昼過ぎに、もう一度、LINEを確認した。既読にはなっていなかった。僕は、妻とも、クミちゃんとも、連絡が取れない。
(あなたが悪いのよ)頭の中の妻がささやいた。(あなたが悪いのよ)。
 今日はなんだか僕も疲れた。3日間の無断欠勤でどやされた。変だな…、無断…。僕も風邪気味なのかもしれない。早めに家に帰ろう。明日になれば、きっとクミちゃんに逢える。その時、連絡先を聞こう。
 夕方早々に仕事を切り上げ、上司のサメジマさんに風邪気味であることを伝えて家に向かった。地下鉄の駅では、いつも以上にゴーっといううなり音が聞こえた。暗闇の向こうから何かがやってくるような、電車以外の何かがそこに潜んでいるような嫌な気分がして、全身から冷汗が出た。

 
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