No.1883

題名:ニワトリ並みの鳥肌
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1882の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 クミちゃんとの食事会という名の仕事が終わり帰途に就くと、妻が家の中で、真っ暗な中でぼーっとしていた。一向に動こうとしない。「暗いよ」と電気をつけた。食卓には僕の食事も準備されていた。「どうせ、”もう”食べて来たんでしょ」と妻が言った。「仕事だから、仕方がない」。「仕事だから…、ふん、そうなの」。それ以上、妻は何も言わなかった。
 とりあえず僕は週末の仕事のことを妻に話した。
「来週の週末、会社のGo To 温泉地のキャンペーンで、伊香保温泉まで行くことになった。一泊したら帰ってくる予定だけれども」
「…誰と」
「上司のほっほら、サメジマさん。以前、結婚する前にシズコに紹介したあの人」
「…ほんと? ほんとにサメジマさん?」
「う、うん、そう。仕方ないよ。仕事だからね」
「随分と忙しいのね…」
「そうなんだ…」
 またも妻はそれ以上何も言わなかった。食事の後片付けもしないまま、ずっと一点を見つめていた。僕はいそいそと食卓を片付け、その何とも言えない場の空気に、書斎にこもった。

 その夜、奇妙な夢を見た。牛がそこに寝そべっている。背中から感じられるはずの律動的な呼吸もなく、その牛は一点をずーっと見つめていた。生きているのか、死んでいるのか。一向に動かない牛。その牛の周りを黄色い小さな物体がぴょこぴょこと動き回っていた。目を凝らすと、それはヒヨコだった。ご丁寧にそのヒヨコの胸には名札が貼ってあった。くっくどぅーどるどぅと書かれてある。
 そして、時折、そのヒヨコは銃を取り出し、獣の雄たけびのようにくっくどぅーどるどぅと鳴いていた。たぶん牛に銃を向け、打とうとしている。でも、ヒヨコの腕からはニワトリ並みの鳥肌が立って、くちばしもがちがちと震えていた。
 そこにこけこっこーと名札の書かれたニワトリが登場した。
「打て、打つんだ。くっくどぅーどるどぅ」 そのヒヨコに向かって叫んでいる。
「うてにゃい」
「打て、打つんだ」バシバシ。
 こけこっこーのニワトリは、くっくどぅーどるどぅのヒヨコをビンタした。バシバシ、バシバシ。何度も往復でビンタした。
「でも、ぼきゅには、できにゃい」
「なんだと貴様。それでも軍人か」
 バシバシ。またもビンタした。黄色いヒヨコの頬は、真っ赤に腫れあがり、泣きながら銃を構えていた。その様子は、もはや別の鳥のように見えた。

 
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