No.1881

題名:同調する
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1880の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 何かが不安定で崩れている。それが何かは分からなかった。でも、崩れている。決して、文字自体が下手なわけじゃない。むしろ僕よりも数段と上手だ。でも、文字にあるそれは、何か、何かが、僕は、彼女を不安にさせているのだろうか…。ふとそう思えた。
 確かに、僕は食事会、食事会という名の仕事としてクミちゃんと食事している。
(あたりまえでしょ。彼女もあなたのことを好きになりかけているの。それが、分からないの…)
妻の声が聞こえた。
(あなたには欠けているのよ。配慮が…。だから、周りに人を知らず知らずに傷つけているの。分かんないの、それが…)

 僕は小さいころからぼーっとしていた。だから、いつも自分の世界で遊んでいた。誰かと遊んでも、そこには誰かの考えが入ってこなかった。大人になった今も、会議でもそうだった。
「タケヒサさん、何か意見はありますか?」
と問われると、返事に困る。たぶん、その返事は人よりも随分と遅れているだろう。
 だって、誰かが何かを言っても、僕に何かを言っても、僕がその何かを処理するには、頭の中がフル回転しなくちゃいけないからだ。フル回転な配慮、そんなの常にできっこない。
 でも、フル回転しなくとも頭の中に入ってくることがある。それがかつての妻と、クミちゃんだった。
 その時、僕というフィルタはない。
 どんどんと相手の世界が入ってくる。
 頭が混乱しない。
 なぜだろうか…?
(好きだからよ。だから、同調するの。お互いに、お互いの世界が)
(好きなの? 僕は…。シズコのことも…)
(当たり前でしょ)
 頭の中の妻が微笑んだ。でも、それは依然の妻だった。

 今日はいい感じに仕事を切り上げることができた。誰からもどやされることなく、今日一日は安泰だった。暦の上でも大安だった。
 フロアに降りるとすでにクミちゃんの姿はそこにはなかった。時計は18時39分を指している。店までは歩いて13分ほど。ちょうどいい時間だった。そこで、通り道の花屋で一輪の花を買って、お店に向かった。お店に着いた時、ちょうど19時だった。
「ごめん、待った?」
「うううん、全然」
 僕は彼女の横に座った。そして、お互いメニューを見合いながら、まずはハイネケンを頼むことにした。

 
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