No.1856

題名:意識だけ
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1855の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 Moon Townの牢屋に閉じ込められ、閉じ込められた僕の心の中も、次第にあたり一面から闇が潜んでくる。そうして、いつの間にか、真っ暗の中に放り出され、一縷の輝きも見えなくなった。

 真っ暗な闇。

 目を凝らしても光という光は何も見えず、耳を澄ませても音という音も何も聞こえてない。
 上も下も、右も左も、前も後ろも何にもなかった。そこには。

 もう、何もない。
 もう、何もない。

 暗闇の中で宙に浮いている物体のように、僕は、浮かんでいた。

 物体。物体なのに、暗闇で自分の手や足を動かしても何も動いていない。まるで動かしている意識だけがぽっかりとその空間に浮かんでいるかのよう。自分でも認識できない僕の体は、体と外と外と体との境界がなく、こぶちゃんと同じように暗闇の中にどろどろと体が溶けてゆく。
 無駄に意識だけが高まり、神経の信号がぴーぴーっと走行しているのが分かる。

 ぴーーーーー。
 ぴーーーーー。

その神経の高まりの中で、僕は、こぶちゃんとの出逢いから別れまで意識を反芻し続けた。僕の、僕の、

 夢は何だったのか?

 希望は何だったのか?

 情熱は何だったのか?

 こぶちゃんから得たものは何だったのか?

 もう、何もないんだ。何も残されていないんだ。僕には…。
 僕という人間には….

 
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