No.1853

題名:永遠に生き続ける
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1852の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 生ける屍。ゾンビ。ゾンバイオ。死霊のはらわた。ぼくちゃん・オブ・ザ・デッド。とにかく思いつく言葉を列挙してみた。けたけたけた…。夢や希望のないただの歩み。僕はその歩みに従って誤った順路、死の順路を歩いてきた。お前はもう死んでいる。そんな考え事をしながら歩いていると、気づいた時には、「こぶちゃんブランドとチーズ製造工場の秘密」と看板が掲げられている部屋の前に到着していた。扉の横にはガチャポンがあり、「こぶちゃんに飼料を与えてみよう」と書かれてある。手持ちにコインがなく、ツキオに尋ねた。

「ほらよ」

と気前よくコインを渡してくれた。もらった真新しいコインには、ハバド氏の顔が浮彫でデザインされていた。
 コインを投入し、ガチャポンすると、カプセルの死霊の文字が目に入った…。目をこすった。こすると、その字は、正しく飼料となった。だから、エサだ。説明には、「香料メランジのエキスを特別に混入させた飼料です。これでこぶちゃんは永遠に生き続けるのです。」と書かれてあった。エサだ。こぶちゃんのエサ…。

 薄暗い部屋の中に入ると、ほのかにあのこぶちゃんの匂いがした。でも、相当に時間が経っている臭いもする。加齢臭。そんな悪臭も漂っている。やっぱりこぶちゃんと違うのだろうか…。
 次第に部屋の明るさになれると、僕の目の前には僕がこぶちゃんのために開発した特別な、それでいて汎用性のあるラクダの宇宙服、こぶちゃんスペシャルを着ている動物が檻の中に見えた。やはりこの宇宙服にフィットする動物は、ラクダ以外にいないはず。ただ、その宇宙服は、相当にくたびれ、かなりの年月を感じた。
 僕はそっとその動物に近づき、ヘルメットの中の顔を見た。焦点が合っていない、年老いているのか、若いのか分からないラクダの顔がそこにあった。でも、見間違えることはない。年月が経っていたが、それはたぶんこぶちゃんに間違いなかった。
 手の平に飼料をのせ、ヘルメットの穴からラクダの口元に飼料を差し出した。もぐもぐと食べる。ンゴォォ…とか細く鳴く。そのラクダはこっちを見た。うつろな目元が、きらりと光った。

(ンゴォォ…。信吉…。信吉じゃないの…。あたいを愛してくれていた、あの信吉じゃないの…。ンゴォォ…)

鳴き声は弱っていた。でも、やっぱりそのラクダから発している声は、そして言霊は、ラクダ・マこぶちゃんからのものに間違いなかった。(やっぱり僕の愛したあのこぶちゃんだ…)。

ツキオ:「ほら、そこよ-みてみ。管が入っているやろ宇宙服の中に。そこから液体化した香料メランジがたえず流れているんや。そのおかげで、不思議なことにここに囚われてから200年以上、生きながらえている奇跡のラクダなんやで。通称こぶちゃんっていうんや。フランコ・ハバド氏がそう名付けたんやで。そんでな…、ここの管。ここからチーズが産生されとるんや。それがこぶちゃんブランドのチーズとなるんやで」

 
pdfをダウンロードする


地底たる謎の研究室のサイトでも、テキスト版をご確認いただけます。ここをクリックすると記事の題名でサイト内を容易に検索できます。



...その他の研究報告書もどうぞ