No.1844

題名:100平方km
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1843の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 ぶーたれるツキオであったが、キーコさんはそっとツキオの手を握った。ツキオはそれを握り返した。二人、顔を見つめ合った。ツキオの顔に温和な笑みがこぼれていた。明らかに、覗いているあの変態性のあったツキオの顔とは違い、そこには何かが、たぶんしあわせが満ち溢れているように感じられた。二人はそのまましばらく見つめ合っていた。その後、キーコさんは、満足したかのように僕の方へのにこりと微笑み直し、

「それでは案内しますね」

と小道の方に向かって歩き出した。二人は仲良く手を繋いだまま、僕は、彼らにおともするかのように後ろからいそいそとついていった。
 小道のわきにある草からは、時折カサカサと音がした。虫か…、もしかしてスーパーG。そんなわけないか…。じっと草の方に目を凝らしても、それらしき姿は見えない。たぶん、何か、別の何かだろう…。その音が気にはなっていたが、少しずつ開けてくる目の前の建物の方にいつしか心が奪われていた。
 宇宙船で降り立った時の空間よりも、ここはずっと広い。そして、あそこも、あそこも、どの建物も目の前に来るとものすごく大きい。圧倒されていた。そんな僕の様子を見てかどうかわからないが、キーコさんは、

キーコ:「ドーム内ってパッと見た感じよりも意外と広いでしょ。ここは、すべての空間が圧縮されているのよ。狭く見えるけど、とても広いの。そうね、地球の日本でいう伊豆大島より少し広いぐらいの面積かしら。100平方kmぐらいかな」

ツキオ:「そうやで、ノブヨシくん。ええとこやろ。空気はきれいだし、ゴミもないし、それに、めっちゃ広いんやで。これもフランコ・ハバド氏の新新時代のノアの箱舟のおかげなんや。おっ、そや。ええこと思いついたで、キーコちゃん。ノブヨシくんに第1ドームにある新新時代のノアの箱舟の館に連れて行ったらどや。どやどや、それドーヤ」

 ツキオはキーコさんに、ドヤ顔していた。

「そうね。ここMoon Townの誕生からの歴史もよくわかるし、昔の遺留品もノブヨシさまの何か参考になるものがあるかもしれないわね。ツキオ、いいこというじゃない。さすがね」

「そうか、キーコ。わいの頭、さえとるやろ」

「ツキオ…、
キーコ…」二人は立ち止まって再び見つめ合っていた。

 
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