No.1833

題名:記憶の残骸
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1832の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 ここ最近、何も起こりそうのない、Moon Townの自警団という職を務めながら、宇宙船で月の世界を警備しながら、ツキオは目の瞼になぜかほろりと涙がこぼれるのを感じた。なんだろうか、これは…。
 でも、自然と涙がこぼれる。キーコを失ったからなのか、それとも…。
 なんとも言えない感情が押し寄せる。

「わいは、どうなったんやろか…。どうなったんやろか…。なんかを失った記憶の残骸のせいやろか。また、ダオッコ博士に聞いてみなあかんな…」

そう、思わざるを得なかった。

(キーコ。キーコは、今、どこにおるんや…)

 そのSeigenなき、制限あるも、な、I think of youに僕は、

(Oh、No)

と叫ぶほかなかった。空には、宇宙空間にはあの愛しい白いドラゴンがゆうゆうとフローしている。(あれっ、なんやろ…)宇宙服のヘルメットの鏡面をこすった。キムタクなフローさぽーてっどばいギャオ。
 ただ、もう、終わったことだった。それは、記憶の残骸というレベルでのことだろう、で、もはやこの現実には存在しない。だから、もう、終わったことだった。後はもう完成間近のキーコの3Dホログラフィを、ダオッコ博士の技量を、信じるしかない。あと、もう少しでキーコに逢えるはず。「もうすぐで完成よ」。この前ダオッコ博士はそう言っていた。とてもうれしかった。そして、今また、涙がこぼれた。
 その時、かつて博物館でしか見たことない相当な旧式と思われる着陸船のようなものが目の前に見えた。静かの海に妙な着陸船、それともあれは宇宙船なのか…と思しき船が着地している。目の前には、宇宙服を着ている人が、月の表面に穴を掘っている。その人の近くに大きめの宇宙服に身を包んだ、その形は何だか動物で言えばラクダのような、そんな宇宙服の物体が横たわっていた。
 気付かれないように静かに観察していると、その穴を掘っている人は、掘った穴に横たわっていた大きな宇宙服を着た物体を土に埋めた。埋めた。埋めたのだ。これは、まさしく死体遺棄。そこに旗も立てた。よくよく考えると、ここは駐車してはいけない場所でもある。
 埋めたあたりの旗をぴかっと光らせ、宇宙船の起動音を鳴らし、注意喚起した。そして、その着陸船の中の人物に向かってアナウンスした。

 「はい、そこの着陸船。止まってください。路肩に幅寄せしてください」

 
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