No.1831

題名:聖なる実現
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1830の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 その瞬間、大天使ガブリエルは、聖母ツキオの母に下に跪き、こう言った。

「あなたはたった今、精霊の恵みによって、この月の世界の救世主である子を身籠りました。その子をツキオと名付けてください。その子はやがて偉大な王となり、いと高き月の世界の王座をくださることになるであろう。それはまさに、フランコ・ハバド神の遺言の元、新新時代のノアの箱舟の聖なる実現、聖なる実現となるのです。そうして、その子の、生まれいずる支配欲には終わりがなく、永遠の愛が保障されるのです」

 ツキオの母は、受胎告知をこうして耳にした。もちろん、それはジムズ・キャロメン博士によるリアリズム・マジックなる仕掛けでもあった。ただ当時はまだ、完成半ばの3Dホログラフィではあったが、朦朧としているツキオの母にとって、その光景は、喜ばしい真実以外の何ものでもなかった。
 ツキオの父も(ダミーの父であるが)傍らでとてもこの状況を喜んでいる。ツキオの母も「ああ、私はついに、ついに身籠ったのだわ。月の世界を変えるかもしれない、愛しい我が子」と喜ぶのだった。
 それから十月十日経った。ツキオはここMoon Townの産科で生まれる瞬間。聖なる循環を繰り返し、例えそれがキャロメン博士による策略だとしても、世界はきっと巡る。その時、ツキオは暗い闇のトンネルを抜け、この暗き明かりある月の世界の片隅で、キャロメン博士による策略で、新たな生として産声を上げつつ、

時々風が吹いて
あなたと私は愛の中を漂い
暗がりの中で永遠のキスを交わす
そうして愛の神秘がはっきりしてくる
それは光の中で
あなたの中 私の中で踊り
私たちこそ愛だということを教えてくれる
愛の神秘がはっきりと姿を現す

その時、ツキオの母は、生まれたツキオにキスしながら、ここMoon Townの産科に、風が吹いているような気がしていた。「これこそ愛の嵐ね。うれしいわ」。ただ、生まれたツキオの本心は、

この恋にも似た感情をどうつたえたらいいのだろう
今だに躊躇っている
僕の中にある怖れが語り続けている
どちらの道を戻ろうか
(やっぱり、元のトンネルに戻ろうか…)

 
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