No.1825

題名:執着の疫の象徴
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1824の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 ツキオは、Moon Townを、月の世界を、巡回しながらパトロールしていた。近年のMoon Townは、かつてのあの食糧難での喧噪も落ち着きを取り戻し、それとともに治安も落ち着きつつあった。パトロールもなかばルーチン化し、ぼーっとしながらでもMoon Town自警団の職はこなせる状況にまで落ち着いた。ただ、ぼーっと職をこなしつつも、まるまる1か月ほど昏睡状態だったツキオは、自分から何かが失われたような気がしていた。刺激のない中で、その感傷に浸るたびに、それが何だったのかを思い出そうとするたびに、治安の落ち着きとは反対に心の落ち着きがなくなりそうになっていた。

(わいには何があったんやろか。思い出そうとしても大事なとこが抜けとる気がするで。でも、まっ、ええか。もうすぐキーコに逢えるから。うれしいはぁー。めっちゃ興奮しとるわ)

 そうして、ふと頭に横切った大事な思考もすぐに忘却し、歴史から葬り去られた脆弱になった建造物のように、あるいは新しく建てられた脆弱な建築物のように、土台から崩壊し、まっさらとなる。思い出しては、崩壊し、消え、思い出しては、また、崩壊する。そして、崩壊後は消えて、すっかりそこから何かが失われる。
 アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン。崩壊する新建築。

 一方、半分人間ハルバー・メンシュの存在は、いまやMoon Townでは貴重となっていた。かねてからフランコ・ハバド氏によるその人権と倫理観を無視した実験の裏にある大いなる野望は、Moon Townの研究者の間で密かに話題になっていた。それは、地球における過去の独裁社会の民衆の心理操作法が、半分人間ハルバー・メンシュの記憶に含まれている、からであった。それを操るものは民衆を操る。しかし、今ではMoon Townの中で第4世代も増えつつある。その中で、濃厚な血を有した第3世代のわずかな人数の半分人間ハルバー・メンシュの存在は、交配によって1/4人間の存在になる。すなわち、純粋な民衆への独裁的な心理操作に関するデータは、1/4に薄まった血ではもはや得ることができない。
 はじめダン・ダオッコ博士は、ツキオが半分人間ハルバー・メンシュであることには気づいていなかった。しかし、第1回目の記憶操作でツキオの体内の血液が、半分解読しにくいことに疑問を抱いた。ダオッコ博士は、不思議に思い、後刻データを詳細に調査すると、妙な記憶痕跡が浮かび上がった。
 虐待、侵攻、独裁。
 それらを解読すると、(彼はもしかして半分人間ハルバー・メンシュなのではないだろうか)との疑いを拭い去ることができなかった。ダオッコ博士の中にある私の欲求が噴出した。(彼がキーコを貶めたのは、そこに原因がある。第1世代の魂の戦士からは生まれない心理。虐待、侵攻、そして独裁。これらが彼の心を支配している)。そして、第2回目の記憶操作で、彼が半分人間ハルバー・メンシュであることが確証となった。
 白いドラゴンは、間違いなく奴隷へと羽ばたいている。
 彼が見た真っ白いドラゴンは、執着の疫の象徴でもあった。そのことにダオッコ博士は気づいた。なぜなら、その白いドラゴンは、アンコントロールな欲望のまなざしを内に秘めていたからだ。

 
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