No.1824

題名:私の欲求
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1823の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 (人の人生は、すべてが欲望なのよ…。欲望から来るの、ツキオくん…)

 ダオッコ博士はキーコの蘇りのために、ツキオの記憶を検索しながら、ツキオの、個人の人生の中にある欲望の付加の作用について探った。

{欲望とは、もともと何もない土台に粘土を貼りつけていくようなもの。それは、安定な均衡の状態(土台)にも、なお付加されて不安定な状態をみずからつくりだす。人間は、みずから好んで不安定の中へ歩み入った存在であり、失楽園とはこのことを言っている。知ってしまったために欲望に苛まれ続ける、禁断の世界。すでに知られ・自分のものになっている快楽が、さらなる快楽を求める、付加の営み}1)

(そう、禁断の世界。失楽園。あなたと私は、快楽を知ってしまったの。もう元には戻れない…)

 そうしてダオッコ博士は、ツキオの記憶のデータをつぶさに観察し、詳細に記録した。同時に、ダオッコ博士は、ツキオという月の世界ではとてもまれな極秘の存在であった半分人間ハルバー・メンシュに関して、これ以上はないというほどのデータを得られたことに満足していた。

(半分人間ハルバー・メンシュ…。ツキオ、あなたは私のもの。この先、ずっと私の奴隷よ。あなたは…)

 ダオッコ博士は、さっそくエアーディスプレイの粘土CADを立ち上げ、手でこねこねと巧みにそれを操作した。元データは、ツキオの手からスキャンしたものだった。ただ、ダオッコ博士の自らのイメージでもってそれをアレンジ。アレンジした。

(いい感じだわ)

 3Dホログラフィのキーコの肉体、一部ツキオが好むかのようにアレンジされた肉体がそこに創りあがった。

(後は、ツキオの記憶のデータをこれに付与すれば…。ふふっ)

(あぁ、あなたのような半分人間ハルバー・メンシュのデータが欲しかったの。とっても欲しかったのよ。なんとなく高まっていた欲求。これは長い間の研究者としての私の欲求。ここで、ようやく満たされたわ。これで月の世界の住民のすべてを、マインドを、コントロールできる。このキーコが出来上がれば…)

1) 黒岩晋: 欲望のエネルギー論(その1). 彦根論叢 306: 117-139, 1997.

 
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