No.1821

題名:昏睡状態
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1820の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 気が付くと、そのドラゴンは僕を背に乗せ、羽ばたいていた。まじかで見ると、真っ白なドラゴン。とても美しい毛並みを持っていた。ふわふわと揺れる毛並みの中で、僕は、この湖が少し塩気を帯びていることに気づいた。
 海…。
 もしかしてここはキーコと行きたかった地球の海なのかもしれない。まだ一度も行ったことのない地球の海。広くて青くて、波がある。そんな映像を何度も見たことがある。でも、すでに月の世界で順応し、適応していた僕らには、地球の世界は無縁だった。でも、きっと今、ドラゴンが潮の流れに乗って泳いでいるここは、海、なのかもしれない。海だ。
 
 ああ、キーコが呼んでいる。僕を呼んでる。湖底にはキーコがいるんだ…。

 ドラゴンにそのことを伝えた。ドラゴンはキーコが僕を呼ぶ声の方に向けて、羽ばたいた。でも、いくらドラゴンが懸命に羽ばたいても、キーコの声の大きさには、一向に変化がなかった。キーコの方に近づいているのか、近づいていないのか、それすらも分からなかった。
 そのうちに、ドラゴンが疲れたかのように湖底に着地し、僕を降ろした。なだめすかせるように、僕はドラゴンの頭をなで、そのままドラゴンはそこから立ち去った。独りぼっちになった僕の耳に、ダオッコ博士の声が遠くから聞こえている。

(ツキオくん。大丈夫…。記憶のキーがようやく見つかったのよ。ねぇ、ツキオくん、返事してよ…)

 その後、少しずつ湖底、いや海底の光が薄れて来たかと思うと、僕の体は真っ暗闇に包まれ、異常なほどの静寂が訪れた。僕は放心状態となった。キーコは傍にはいなかった。愛しいキーコがどこにもいない…。

 後で、目覚めた時、ダオッコ博士は記憶装置の異常なまでのシンクロ率について語ってくれた。僕はその直前に意識を失い、まるまる1か月ほど昏睡状態だったことも教えられた。

「ダオッコ博士。わいはどなっとったんや。ぜんぜんおぼえとらへんがな…」

「ツキオくん。覚えていない。意識なくなったこと…」

「そんなん覚えとらんで。なんかあったんか、わいに」

 ダオッコ博士がなぜか苦笑いしていた…。

 
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