No.1819

題名:半分人間ハルバー・メンシュ。
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1818の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 「でもね。ツキオの父さんがダミーだって構やしない。だって、ツキオは母さんの子だもの…。ごほっ…」

 その後、母は急に激しく吐血した。そうして、そこから次第に目を閉じ、主治医のデミッド・クロイハンバーグ先生の懸命の処置にも関わらず、母は帰らぬ人となった。
 母と同じく、多くの第2世代の人は、おおむね同じような亡くなり方をした。最後には月の世界の表面にある放射線の影響からか、急に激しく吐血し、そのまま衰弱するのが運命だった。ただし、僕ら第3世代ともなると「Dsup」タンパク質の効果もあって、随分と放射能には強くなっていた。「Dsup」。2016年の研究で発見された、クマムシの体内から、放射線からDNAを保護する役割を果たすタンパク質1)。これのおかげで、僕とキーコも、体内からほとばしる放射線にはかなり耐えうる能力を有していた。
 キーコ…
 キーコの肢体からほとばしるそれを、僕はその匂いを、また思い出していた。

 「じゃぁ、ツキオくん。行くわよ」

 目の前にいたダン・ダオッコ博士が大手を振って手招きをしている。(今日はきっと記憶のキーが見つかる)。さっきのダオッコ博士によるその言葉と同じように、確信された笑みがそこにはあった。
 ダオッコ博士についていった。そして、昨日のあの部屋の、あの真っ白いベッドの、その前まで来た。ベッドはまたくねくねし始め、昨日と同じように僕にフィットするように機能している。昨日の機能はそのままだ。その動きはまるで魔法がかかっているかのように思えた。

「ささっ、ツキオくん。そこに横たわって…」

 甘い香りにささっと誘われるスーパーGのように、僕はダオッコ博士の甘い誘惑にほだされ、ベッドに横たわった。快適だった。
 今日は記憶の奥底まで、湖底まで行けるかもしれない。そうすれば、3Dホログラフィのキーコは、実像レベルにまで迫れる。もう一度キーコに逢えるかと思うとわくわくするようで、僕の胸の内、正確には、頭の中も少し怖かった。壊されるような気もしていたから。
 僕にはキーコを愛するだけの人格があったのだろうか。資格があったのだろうか。
 僕はダミーの父のもとで育った半分人間ハルバー・メンシュ…。
 そうだ、キーコに記憶の湖底で出逢ったら、そこで僕ははっきりと言おう。
「僕は半分人間ハルバー・メンシュ。でも、キーコへの愛は半分じゃない、僕のすべてなんだ」と。

1) https://nazology.net/archives/47612 (閲覧2020.9.2)

 
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