No.1817

題名:イケメンではなかった
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1816の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 Moon Town宇宙科学研究所に着くと、ダン・ダオッコ博士が入口の前で満面の笑みを浮かべていた。僕が歩いて来るのを見つけると、ダオッコ博士はひときわ輝いた笑顔を見せた。

「ツキオくん、ツキオくんね。もう大丈夫。今日はきっと記憶のキーが見つかると思うの。昨日の敗因を調べたら、案の定ね、記憶装置の入力部分にウィークポイントがあったことが見つかったのよ。今日は、もう、万全。安心して。かなり綿密に調整したから、きっとキーコさんに逢える。そう確信しているわ」

 そういうダオッコ博士をしり目に、僕は不安がぬぐいされなかった。僕の記憶の中に、あのキーッキーッキーッという音の原因が明確に蘇っていたからだった。

 真っ暗な闇の中、僕は真夜中の徘徊者となってあたりを見回していた。
 そうして気づいた。その音の原因は、恐怖だ。
 キーコを失ってしまう、キーコがどこかにいってしまう、キーコが。それは他でもない僕以外の誰かによって。僕はそんな見えない影につき纏われ、僕自身の劣等感に苛まれ、単なるじゃがいも工場で働いているだけのとりえのない自分。そんな自分にキーコが、キーコが、僕から離れてしまう。

 離れたくない。
 ずっと一緒に居たい。
 でも、いつか離れてしまう…。
 いや、そうじゃない。
 絶対に、そうじゃないはず。
 キーコはそんな風に思っていない。
 でも、僕からやがてキーコは離れてしまうんだろ…。
 それは間違いだ。
 でも、そうだろ…。
 そうじゃない。
 でもそうさ。きっとそうなのさ…。

 そんな恐怖に脅かされるようになっていた。僕に付きまとう死神は、ジョー・ブラックのように優しくはなく、ブラピのようにイケメンではなかった。
 永遠のしあわせ。
 キーコと誓ったその気持ち。でも、あの音に苛まれる僕は、優しくはない死神にとりつかれ、僕は、もはや、キーコにとってのイケメンではなかった。イケメンではなかったのだ。

 
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