No.1816

題名:永遠のしあわせ。
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1815の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 第4人工ドームから、第5人工ドームに向かって歩く通路の、その夢を見ている間、僕はキーコとの間にあった出来事を反芻していた。それは、The Space for Loveであり、ただ単なる宇宙空間でもなく、ここにある銀河系でもなく、僕とキーコとの間に芽生えていた間違いない愛の宇宙だった。キーコから愛の信頼と責任を奪う前の僕。キーッキーッキーッ、というあの車輪の音が聞こえる前の僕。

歩道に並んだ木々たちが
彼方の星を遮って
そして優しく

夜の静かな通りを歩いている私たちを包む
愛の宇宙を作ろうとして
柔らかな風に時が運ばれていく

夜の静かな通りを歩いている私たちを包む
愛の宇宙を作ろうとして
柔らかな風に時が運ばれていく
あなたの手は私の手の中

 そうして、僕はThe Space for Loveを完訳しながら、ギュッとキーコの手を握り、その永遠を歩いた。そこでの宇宙の広さは、あのアルバート・アインシュタイン博士といえども解くことが出来ないほどの広大な空間だったに違いない。時に、時空の歪みが発生しようとも、数式では表せない、その時空を超えた先の世界を僕はすでに感じてしまっていたからだ。果てしなく広がる宇宙項…。ずっと続く時間。
 それは、永遠のしあわせ。キーコとずっと続く無限のしあわせ。だった。

 胸が締め付けられ、カプセルの中で横たわる僕は呻いた。
 握っている僕の手の中の、あなたの手のぬくもりを感じながら、僕は、僕は、僕は…。
 
 急に、太陽の光がまぶしくカプセル内に入ってきた。月の摂動が次の日の時刻を告げていた。地球はどこまでも青く、そして、僕の心、は果てしない宇宙の闇のようにどこまでも黒く続いていた。
 地球は朝日が昇り、夕日が沈む。その繰り返しで日々が続いていく。でも、月の世界は何時までたっても闇の中。宇宙空間で地球の重力に操られながら、同じ面を地球にさらし、その面が恥ずかしとも、恥ずかしくないとも思わないままで、そこをさらしている。月の裏側は、地球からは永遠に見ることができない。僕もキーコの表面しか見えてなかったのだろうか…。

 
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