No.1814

題名:何かを失って
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1813の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 ダオッコ博士:「私も開発に関わった最新式の記憶操作の機器を使っているので、とんでもないことにはならないと思うけど…。ツキオくん、本当に大丈夫?」

僕:「大丈夫だと思います…たぶん…」

 その後、ダオッコ博士は開始時と同じように、パチンと指を鳴らすと、しゅるしゅると音がして触手が僕から外れていったようだった。す-っと目の前で機械から伸びてきたあの棒が引き込んでいく。それと同時に頭の中のきらきらした輝きも失われていった。

ダオッコ博士:「途中から、随分と記憶が支離滅裂っぽいけど…、たぶんいろんなことが錯綜して、混乱しているのね」

僕:「そうだと思います」

ダオッコ博士:「記憶動画によると、キーコさんのことが相当に好きなのね。今でも」

僕:「はい、そうだと思います」

ダオッコ博士:「ただね…。深く掘り調べても、記憶のキーとなるところが見つかっていないのよ。だから、少し時間がかかるかもしれない。ちゃんとした記憶のキーが得られないと、データ化も困難なの。それだと、キーコさんのリアル3Dホログラフィの思考も、記憶と同じで支離滅裂っぽくなっちゃう。
…。
明日、もう一回、チャレンジしたいけど。ツキオくん、それでいいかな」

「はい、お願いします」

 そうして、Moon Town宇宙科学研究所を後にして、自分のカプセルへと帰った。
 カプセルで横になっていると、このまま記憶のキーが見つからないとどうなるのだろうか、リアル3Dホログラフィといえども、もはや永遠に、永遠にキーコに逢えないかと思うと、とたんに不安が襲った。
 僕の心のキーコは今も鮮明に生きている。でも、キーが見つからないということは、僕は、確実に何かを失ってしまった。何かを失って、しまってるんだ。
 その時、忘れていたあの音が聞こえてきた。
 キーッキーッキーッ、というあの車輪の音だった。

 
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