No.1813

題名:たぶん…
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1812の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 恋は目に見えない。ましてや愛など影も形も見えない。なのに、皆、平然と、恋した、だの、愛してる、だのと宣う。だから、そのレベルインジケータが人間の額にあればいいのだ。そのレベルインジケータは、キーコに関しては、振り切っていた。キーコの吐息が空気の波動となって、僕の心を揺り動かす。かもめのようにねんねしな、と歌が聞こえる。
 ごとんごとん、ごとんごとん、ゆりかもめ。発信します。
 そうだ。恋や愛はきっと波が発した信号なんだ。粒子と粒子がぶつかり合って、出会ったことで心の波が動く。何も見えない空中にはちゃんとそれが浮かんでいる。いつもはふわふわと浮かんでいても、恋の以心伝心で直線的に双方向に進み出し、やがて信号で発振する。心の波が動く。
 何だろうか、匂いだろうか。キーコの匂いが大好き。
 本能的にそう感じている。
 僕とキーコは、第5人工ドームのSequenzerテラス (from 70 to 07)でよくデートした。そこからの月の世界の眺めは格別だった。
 月に生まれた僕たちは、地球の日の出は見たことがない。さらに、月はいつも地球と真正面に位置している。だから、地球の出などもここにはありはしない。
 僕とキーコは砂着(地球で言う水着に相当)に着替え、チェアに横たわった。僕の横にキーコが居る。二人はチェアに寝そべり、そのままずっと天上にある地球を眺め続けた。その時、キーコの手に触れるとキーコは僕の手を固く握りしめた。僕はキーコに目線を移した。少し恥ずかしそうなキーコだったが、手をぐっと寄せると、キーコは僕の懐に入ってきた。そうして、キーコから、キーコの肢体から、放射線がほとばしる。
 キーコの匂い。その放射線は、僕の心にまっすぐ突き刺さり、僕の全身の血液が煮沸する。
 核は融合し、太陽は光を放つ。
 そうして、再び心の波が動く。お互いのエネルギーが交換される。僕とキーコ。
 離れてはいけない、離れては、やってはいけない。ここから、離れてはいけないんだ。
 どきどき。
 ときめき。
 ゆりかもめ。
 ごとんごとんと、走ってる。ごとんごとんと、走ってる。
 発信の終着駅はどこだろうか。発振の執着疫はどこだろうか。キーコ、キーコ…、キーコが呼んでる…

ふと目が覚めた。ダオッコ博士の顔が目の前に見えた。心配そうに僕のことを覗き込んでいる。

「ツキオくん。大丈夫?」

「はぁはぁはぁ…平気です…たぶん…」

 
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