No.1812

題名:恋の以心伝心
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1811の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 壇上に立って業務の手筈について説明しているキーコは、特別な光を放っていた。
 この世の光には光速がある。すなわち、光には一定の、限界の速度が宇宙空間で支配されている。でも、その光速をしのぐほどに輝いているその特別な光は、僕の中の何かを着実に揺り動かしていた。それは、ある物体が揺れると、それに全く関係ない物体もあれば、少しずつ同調し、やがて同じ振幅を奏でる場合が存在することを立証していた。
 僕の中の光は、キーコが放つ光と瞬く間に同調し、僕にはキーコが必要だと意識が自然と芽生えていた。それはとても不思議な体験だった。キーコもそれを感じていたのかもしれない。キーコが僕に目線を合わせると、それにすぐに気づき、キーコも僕の目線に意識を集中させていた。それとともに、お互いの頬が同時に点滅し、僕たちはもはや瞬間で出逢っていても、すでに意気投合していた。
 これが、恋の以心伝心。初めての出逢いの瞬間で、すでに、僕たちは運命的に結ばれていた。
 今思えば、そうなのかもしれない。後で、僕がキーコの恋人になった時、それとなくその時のことを聞いてみると、やはり僕と同じ気持ちだったようだ。キーコも僕に対してなぜか特別な光を感じていた。そういう話であった。「なぜか、あなたの存在から意識を外すことができなかったの…。それは、あなたと同じ…」と。
 すべてのMoon Town自警団に関する説明が終わると、今後、我々はどのようにしてMoon Townの秩序を守るべきか、そのような改造を実施するべく、小さな会合が設けられた。もちろん、キーコもそこに同席していた。ただ、偶然にも、僕とキーコは隣同士。偶然…。いや、今思えば、そうでないのかもしれない。とにもかくにも僕とキーコは並んで座った。
 キーコは、あなたのことを知っている。他の人から聞いたことがある。あなたに逢ってみたかったの。そういう話を僕にしてくれた。僕は、僕で、率直に今日感じたキーコへの光速レベルについて述べていた。本来ならば、Moon Town自警団のその後の行く末について、まじめに話すべき会合で、僕たちは、僕たちで、もはや二人の世界がそこで出来上がっていた。
 二人というよりも実質は一人の世界かもしれなかった。僕たちは、その時、お互いに補うような、補われるような、そんな時間がそこで形成されていた。だからこそ、その時間が分裂してしまうようなことはなるべく避けたかった。簡単に言えば、僕はキーコを離れてはいけない。キーコも僕から離れてはいけない。お互い離れてしまうと、そこに強力な重力場が発生し、時間の歪みを引き起こすからだ。
 魅かれあう星は、お互いを犠牲にしながら、重力を分かちあい、気がつけば一つの星にまとまる。その時、まとまった時、星は強力な重力場を発する。それが恋の重力場だとしたら、僕たちはもはや引き離せないほどその重力愛に捉えられていた。僕はキーコにその気持ちを正直に話し、キーコの手に触れた。
 「離れたくない。ずっと一緒に居たい」と。
 「わたしも…」と、キーコもそう答え、僕たちはお互いの手を固く握りしめた。

 それからほどなくして僕たちは結ばれた。それは、もはや偶然ではなく、必然だった。
 キーコの吐息を感じつつ、僕の魂はキーコにすべてを捧げた。キーコも僕にそのすべてを捧げてくれた。

 
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