No.1807

題名:その一心
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1806の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 提案した時、ダオッコ博士は難色を示した。それも当たり前だ。Moon Townに限らず、地球でも個人の記憶を勝手に操作することに対しては、厳重に戒められている。場合によっては法律でかなりの重罪となる可能性が秘められていた。
 個人の記憶操作に基づく使用目的に関しては、如何なる操作であろうとも、その個人の同意の下に帰属され、そこには厳格な裁きが存在はしない。ただし、その部分は、非常にグレーゾーンである。もし、その操作した人が、ある個人を記憶の中に葬り去ろうものなら、それは犯罪と、もしくは、殺人に等しいぐらいの罰則も設けられていた。それというのも、記憶を操作させられた人は、場合によっては廃人となることも過去の実験で十分すぎるほどに示されているからであった。だから、その塩梅は、記憶に基づいたデータに付与するレベルに応じて、研究者の力量や、その後の法の裁きに委ねられているも、一歩間違えればMoon Town宇宙科学研究所の権威でもあったダオッコ博士と言えども、僕の提案によっておのずと研究者としての地位が危ぶまれる。その危険性は重々承知の上での、僕からのダオッコ博士への強引な提案であった。

ダオッコ博士:「そうね。いい提案だとは思うけれども、記憶の操作については、その扱いが難しいことも承知の上での決断なのね…」

僕(ツキオ):「はい、もちろんです。記憶操作の同意書にもサインするつもりです」

ダオッコ博士:「ふ~ん、やっぱりそうなのね…」

 その後、ダオッコ博士は腕組みをしながら随分と想いを巡らせているようだった。それから、1、2分経った頃だろうか。僕の方をすっと振り向きなおしたダオッコ博士は、何か決断した表情を示していた。その通り、

「分かったわ。やってみましょう」

と明白に返答した。
 ダオッコ博士はエアーディスプレイから同意書を探り、僕にそれを提示した。僕は快くそこにサインした。僕の記憶なんて、僕がその後、どうなろうが、今の僕にはキーコが蘇る、そのことしか頭になかった。3Dホログラフィ上のキーコでもいい。彼女にもう一度、逢いたかった。その一心であった。

ダオッコ博士:「じゃあ、ツキオくん。こっちの部屋に来てもらえるかな」

 ダオッコ博士は手をかざすと、見た目は壁だったところから、急にドアらしきドアがそこで開いた。その奥には、この部屋のミニマリズムな状況と打って変わって、様々な機器が置かれている雑然とした部屋が現れた。

 
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