No.1804

題名:その肢体
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1803の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 僕もキーコも第3世代のMoon人だった。200年前にフランコ・ハバド氏による新新時代のノアの箱舟が実行され、牛(ぎゅう)、豚、ニワトリなどの動物、麦や米などの植物、そしてわずかの昆虫を月の世界に移住させ、人間はと言えば、男2人、女2人の組み合わせでスタートした。彼らは、ハバド氏のCMで言う魂の戦士であり、僕たちの祖父、祖母にあたる人物だ。
 それから200年を経て、第3世代ともなるとMoon Townの人口も相当に増え、今や150人を超える勢いにまで膨れ上がった。
 地球は、人口問題や環境汚染など様々な問題を抱えている。が、結局は、月の世界に移住しても人間のやることは同じだった。交配し、産んで、増やして、快楽を求め、やがて破壊への道と進む。DNAプリンタで植物は簡単に増やすことができ、部分的に緑化は進んでいたが、食べるためにはその緑化もつぶすはめになる。そうして、人口増加とともにMoon Townの敷地面積も初期段階の10倍に膨れ上がり、移住し始めに建てられた第1人工ドームはすでに老朽化が進んでいて、リフォームする段階に入っていた。
 月の砂漠を眺めながら、ぼんやりと過ごす。キーコは第5人工ドームのSequenzerテラス (from 70 to 07)でよく言ってたっけ。「私たちも地球に生まれてみたかったよね。海で泳いでみたい、一度は。地球の海で。ねっ、ツキオ。そう思わない?」って。そのテラスで砂着(地球で言う水着に相当)に着替え、チェアに横たわっていたキーコは、いつも妖艶だった。今でもその肢体が目に焼き付いている。キーコが砂着を纏っている肢体からほとばしる放射線は、いつも僕の体を熱くさせた。キーコが心から愛おしくてしょうがなかった。
 そして、そのキーコが、そのキーコがいなくなったこの月の世界には、もう僕には闇しかなかった。

 Night so dark
 Where are you?
 Come back in my heart
 So dark
 So dark
 So dark

 遠くの砂の海で、ジュリー船長が、月面車をクルーズしている(ジュリー・クルーズ)のが見えた。その時、ふと思いついた。キーコの記憶を忘れないように、僕の手の内で転がっていたデータを具現化する。
 そうだ。僕の中の記憶とそのデータを合わせれば、ニューAIに基づいたリアル3Dホログラフィによってキーコがこの世に蘇る。
 ただ、足りない部分の手の内のデータを僕の中の記憶からどれだけ補えるかが、キーコの実像レベルの精度に直結する。ただ、たぶん闇でも、その夜がso darkでも、同じ夜の記憶を何度も何度も再生すれば、キーコの実像への精度が上がるはず。どのぐらいまでレベルを上げられるのか、今度、Moon Town宇宙科学研究所のダン・ダオッコ博士に聞いてみることにしよう。

 
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