No.1585

題名:説教
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1584の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 しばらくその後も、組合長…、いや伯父の説教が続いた。

(分かっている)

僕の父(イソベマグロ)はすでにこの世にはいない。大シケの日に誰の注意にも耳を貸さず、漁に出て行方不明。そんことは、充分に分かっている。その年から、母がスナックに働きに出て、僕たちを育ててくれたことも、今では納得はしている。僕ももはや28歳の大人だ。でも、毎回、漁に出かける前の一服している父のかっこよさに(図)、10歳当時の僕は、父の姿にしびれていたのも確かだった。

(大きくなったら、父みたいに漁師になるぞ…)

 だから…、だから、あの日から、父がいない、あのかっこいい父がいない。そして、追い打ちをかけるように、次第に母も夜の仕事で不在。
 赤子だった妹の面倒は10歳の僕が見なければいけない。義理の伯母さん(病院のナース)に助けられながら、何とか生活をしてきたものの、中学・高校とかなり荒れていた。伯父にも随分と迷惑をかけたことも分かっている。

図 父の面影1)

 その後も、伯父の長い説教が続いた。ただ、荒れていた僕でも、漁業組合の一員として、皆に頭を下げて、僕を雇ってくれているのも半ば負い目で、長くてもこの説教は聞かないと、伯父はまたへそを曲げる。

(誰のおかげで、今のおまえの職があると思うてんねん、カツオくん。おれがみんなに頭下げたからやろーが…。ほんに、おまえの父はもくもくと漁にいそしむ男の中の男やったが、おまえは女あそびばっかりやないか。おれをバカにすんのもたいがいにせーや)

 いつもこの手の説教は小一時間ばかり続く。窓を眺めながら、ぼんやりして説教を聞いていると、あの当時のことも思い出した。

1) https://www.pinterest.jp/pin/737745982694691196/ (閲覧2020.1.25)

 
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