No.960

題名:夢世界は脳のアバターである -Revonsuo博士らの見識から-
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.959の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 先の報告書にて夢の現象学と進化心理学的な観点から、夢世界は自我を形成するとともに、現実への脅威ともなることを述べた。しかしながら、現在は、人類は文化を纏い、定住生活することも可能となり、所謂自然界からの脅威は少なくなりつつある。時おり起こる天災による脅威は別として、他の動物から現在の地位を脅かされることもない人類は、夢世界における脅威のシミュレーション機構も別の付加価値がもたらされることとなる。先の報告書にも提示されたフィンランドの心理学者であるAntti Revonsuo博士の報告1)は、さらに見識を増し、別の付加価値として、夢世界は脳のアバターである2)ことを示唆した。そこで、本報告書では、この論文を読み解き、筆者なりの知見も交えて、ここに報告したい。
 アバターとは日本語では化身とも訳し、ジェームス・キャメロン監督による映画「アバター」の公開以降、日本でも一般化した用語となったことから、映画を見た方ならその用語の内容についてはおおよそ理解しているであろう。Antti Revonsuo博士らの報告2)は、この映画に影響を受けたかは定かではないが、表題を「The Avatars in the Machine」としてうまくこの用語を取り込んでいる。そして、その報告によれば、「夢世界は社会シミュレーションである」と述べている。
 「夢世界は社会シミュレーションである」という理論的な説明は、経験的な夢想家から慎重に収集された内省的なデータに基づき、それについては、社会シミュレーションの機能のいくつかを説明できたとしても、シミュレーションを生成する根本的なメカニズムを説明できないことを、博士自身で伝えてはいる2)。そうではあるものの、私たちの夢世界の脳に住むシミュレートされた人の基本的な形而上学的性質は、夢世界のアバターたちが持っている特徴から構築されており、まさに、睡眠中の脳は、鮮やかでダイナミックな複雑な現象を生成し、主観的な時空間的な幻覚を組織化し、アバターとして社会シミュレーションに住んでいる神秘的な現象であることを明らかにした2)。それは、客観的、物理的に観察可能、または、測定可能な物質ではないものの、夢世界と意識の現在の理論的な説明を超えた現象であり、現実世界を案内するアバターともいえようか。
 そのため、報告書のNo.957でも示したように、「あの人に逢いたい気持ちも、実はこれを起点に目覚め」、それは偶然ではなく、必然として逢える。その程度の差こそあれ、「引き寄せの法則」3)とも繋がる。
 ただし、一方で、引き寄せるばかりでは、引き寄せてはいけないものまでをも引き寄せる可能性がある。そこで、文献4)にもあるように、「引き寄せない法則」も重要な意味を持つ。そこでは、自身が孤独に慣れて、他人とつながっていなくても大丈夫と思える自信が必要であり4)、明確な自我(未来への予期、現在の知覚、そして、過去の想起で構成される夢世界(No.959))を持つことによって、映画「アバター」の元海兵隊員のジェイク・サリー(俳優:サム・ワーシントン)のように、夢世界を自らコントロールすることができる。

1) Revonsuo A: The reinterpretation of dreams: an evolutionary hypothesis of the function of dreaming. Behav Brain Sci 23: 877-901, 2000.
2) Revonsuo, A., Tuominen, J. & Valli, K.: The Avatars in the Machine – Dreaming as a Simulation of Social Reality. In T. Metzinger & J. M. Windt (Eds). Open MIND: 32(T). Frankfurt am Main: MIND Group. 2015.
3) ロンダ・バーン: ザ・シークレット. 角川書店, 2015.
4) https://www.realoclife.com/entry/law-of-repulsion-is-more-important-than-law-of-attraction (閲覧2018.11.6)

 
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