No.915

題名:自己と他者を比較する行為への理解
報告者:ダレナン

 日常生活を営む上で、人は意識的にせよ、無意識的にせよ、他者と比較することがしばしばである。その比較は、年収であったり、容姿や容貌であったり、地位や学歴などであったりする。このように、自己と他者を比較する行為の研究は、アメリカ合衆国の心理学者で、社会心理学であったLeon Festinger博士によって、1954年から始められ、博士はそれを社会的比較として定義した1, 2)。そして、その根底をなす理論を、博士は、社会的比較過程理論2)としてまとめている。さらに、宮城学院女子大学の高田利武博士3)によれば、社会的比較の主な機能として、①自己評価、②自己高揚、③自己融合の3つがあるという。
 文献3)によれば、自己評価は、正確な自己認識を得るため機能であり、そこでは社会に適応し、自己の状態を改善する情報源として他者との比較を促進するような適応的圧力が作用する。それに対して自己高揚は、自己に対する価値づけを防衛し、維持し、向上する機能であり、さらに自己融合は、適切で有効な行動や結果、あるいは、人間関係を得る機能である。しかしながら、それらは、正確な自己評価に伴う苦痛や不快を避けようとする快楽的圧力も作用するという。
 その上、社会的比較の実態において、青年や成人などの年代に伴う発達的要因や、パーソナリティによる要因は、自己概念形成の方途に対して多大な影響を及ぼし3)、特に、パーソナリティによる要因は、社会的比較を理解する上で欠かせない要因であることも指摘されている4)。例えば、パーソナリティにおける、公的自己意識:他者から見られる自己を意識しやすい、自己の内面や他者に対する言動などに注意を向けやすい傾向4)、や、自尊感情:自分の大切さに気づき、自分を価値ある存在として尊重し、認める気持ち5)、自尊心ともいう、に関しては、社会的比較に伴う行動への理解として、重要な特性となる4)。
 公的自己意識に関して検討すれば、公的自己意識が高い人は低い人に比べて、容姿・外観の比較、友達との比較、不確実性低減のための比較、比較による劣等感、比較に対する否定的感情が多かったことが明らかにされている4)。一方、自尊感情に関しては、自尊感情の高い人が自己向上のために社会的比較を行う傾向があるのに対して、自尊感情の低い人は、自分の劣等さを再確認するために他者との比較を行い、その結果、さらに自己に対してネガティブな感情を抱くという悪循環に陥っていたことも明らかとなっている6)。
 一般に、集団志向的である日本人においては、自己を他者と比較する社会的比較が多く生じ、また、比較した結果が、大きな意味を持つ7)。逆に、時には、それがストレスともなり、比較の量も増加する1)。そこで、ここでは、その行為への理解として、各用語の内容をまとめ、自分自身が社会的比較をする際の、明確な区分として、これらを示したい。

1) 吉川祐子, 佐藤安子: 対人比較が生じる仕組みについての心理学的検討. 心理社会的支援研究 1: 41-53, 2011.
2) Festinger L: A theory of social comparison processes. Human Relations 7: 117-140, 1954.
3) 高田利武: 日常事態における社会的比較の様態. 奈良大学紀要 22: 201-210, 1993.
4) 外山美樹, 伊藤正哉: 児童における社会的比較の様態(2): パーソナリティ要因の影響. 筑波大学発達臨床心理学研究 13: 53-61, 2001.
5) https://www.nps.ed.jp/ouen/NewFaq/05/jison.pdf (閲覧2018.9.20)
6) 外山美樹: 社会的比較によって生じる感情や行動の発達的変化: パーソナリティ特性との関連性に焦点を当てて. パーソナリティ研究 15: 1-12, 2006.
7) 外山美樹: 社会的志向性と心理的特性との関連: 社会的比較志向性尺度を作成して. 筑波大学心理学研究 24: 237-244, 2002.

 
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