No.848

題名:人間の男女の結びつきの生物学的真実
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.837の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 先の報告書のNo.837にて、”不倫の文化論”は、人類学的には破滅(愛憎の縛りがもつれる)への文化に至る道を案内していたことを示しつつ、No.836にて人間的シンビオス(共生)の欲望には、人間、集団、家族という3つが愛憎という縛りによって規定されていることも示した。ここでは、人間の男女の結びつきについて生物学的な知見を介して、その真実を見つめたい。
 各種報告書に何度か引用されているが、文献1)の執筆者である松沢哲郎博士は、チンパンジーなどのヒト以外の霊長類の多くの観察から、比較認知科学という科学を提唱し、「人間とは何か」という命題について果敢に挑んだ科学者である。筆者の尊敬する科学者の一人であるが、博士によれば、キリスト教の結婚式の誓いの言葉には人間の男女の結びつきを生物学的な真実で持って言葉で表現されているという。それは、
「健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、楽しいときも苦しいときも、これを愛し、これを助け、これを敬い、死が二人を分かつときまで真心を尽くすことを誓いますか」
という文言である。その文言に対して、博士はこの「愛し合いますか」の意味の根底には、「共同して子どもたちを育てる覚悟はありますか」と尋ねているという。いわば、共に育てる、「共育」が込められているとしている。
 人間の女性(人になる前であれば、メス)は、進化の過程で明確な発情期が喪失し(報告書のNo.262も参照)、その結果、人間の女性の排卵と生理の周期を隠すこととなった1)。そのことは、つがい(パートナー:オス)から助力を引き出すことにも成功した1)。すなわち、女性側からの戦略として、発情期の喪失によって次々と子どもを産んで、一人では育てられないことを自明として、別の男性の子どもを身ごもることを繁殖の上で避けることができた。さらに、男性側はいつも子育てにおいてメイトガーディング(配偶者防衛)をしなければいけないこととなる1)。これによって、つがい(伴侶)との関係が強固となり、人間のみで顕著な一組の男女の強い結びつきがもたらされた。まさに、人間の共育が、教育の基礎となる特徴でもある1)。
 現在は、結婚をしない、あるいは、しても子どもを設けない、という自己規制が働くために、共育の教育が文化的にも変化しつつある。それに伴って、男女の結びつきも変化しつつあり、つがいでの強固な関係も、かつての時代に比べて、脆弱になりつつあるのかもしれない。しかしながら、人間の女性は、子育てという制約に由来して、一人の男性を深く愛するようにできており、人間の男性は、配偶者防衛という機制に由来して、一人の女性を深く愛するようにできている1)。ただし、共育自体が脆弱となると、その代わりの他の愛を求めるようになる。それが、浮気であり、不倫に至る経緯かもしれない。指輪は、先の愛の誓いの具体化でもあるが、それが外れる時は、愛の誓いも外れるのであろう。そのため、それを外さないようにつがいに対する”いつもの誓い”(図)が日頃から大事なのかもしれない。

図 いつもの誓い2)

1) 松沢哲郎: 想像するちから-チンパンジーが教えてくれた人間の心-. 岩波書店. 2011.
2) https://illustimage.com/?dl=4943 (閲覧2018.7.2)

 
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