題名:年齢に伴う時の認識の変化
報告者:ダレナン
本報告書は、基本的にNo.834の続きであることを、ここで前もってことわりたい。
先の報告書で時の知覚について経験との関係を示し、経験の源でもある記憶と脳の可塑性の関係によって時の知覚が歪められている可能性について示唆した。ここでは、実際に時の知覚から、それが認識に至る過程において、先の報告書の図に基づいて、それがどのようにそれが変化するのかについて数式化したい。
文献1)の塚原仲晃博士によって提示された図には、物理的な時間と脳の可塑性についての年齢に伴う変化があり、それらを統合するように心理的時間の推移が示されている。それによると、16才ほどをめどに、物理的時間と心理的時間との間に変化が生じている。そこで、その図を基に、グラフを数値化するソフトウェアであるSimpleDigitizer2)によってエクセルで数値化し、新たに図示した。それが図となる。縦軸に物理的時間に対する心理的時間の%を示し、横軸は年齢である。これを見ると明らかなように、ほぼ16才をめどに心理的な時間が減少に向かい、80才では物理的時間の20%に相当する心理的時間が見てとれる。簡単に言えば、80才では物理的な1時間(60分)が、たったの60*0.2=12分と感じることが分かる。そこで、年齢をNとし、心理的な時間をT’、物理的な時間をTとして、これを数式化すると、
図 物理的時間に対する心理的時間の変化
N = 0~16 ⇒ T’ = T N = 17~80 ⇒ T’ = T * (-1.25 N + 120)/100
となる。
報告書のNo.833にもあるように、「感じられる時間の長さは、年齢と反比例的な関係にある」という「ジャネーの法則」があるが、図によれば心理的時間は反比例ではなく、16才という年齢を境に、徐々に減少する線形性であることが理解できる。実際、このような単調減少とはならない可能性もあるが、ある年齢を境に時の認識が変化する、時間が経つのが早くなると感じることは、経験上多くの人が実感することでもある。
ここで、16才という年齢を考えると、理化学研究所の津本忠治博士によれば、前頭連合野の発達の臨界期は、8~15才くらいまでとされ3)、時の認識はこの辺とも関係があるのかもしれない。前頭連合野は、外側部は行動の認知・実行制御、内側部は心の理論・社会行動、腹側部は行動の情動・動機づけ制御に重要な役割を果たすことから4)、これらの機能が成熟することを境に、年齢に伴う時の認識も減少に至るのであろうか。
1)塚原仲晃: 脳の可塑性と記憶. 岩波書店. 2010.
2) http://www.tarj.org/mua4z93ho-389/#_389 (閲覧2018.6.28)
3) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo5/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2014/05/27/1265682_002.pdf (閲覧2018.6.28)
4) 渡邊正孝: 前頭連合野のしくみとはたらき. 高次脳機能研究 36: 1-8, 2016.