題名:他人の目から見たヒト社会の特徴
報告者:ナンカイン
ヒトは生きる上で他人の目を意識する。それは、学校でも、仕事でも同じであり、奇異な、あるいは、怪しい行動パターンの頻発は、その行動パターンを有するヒトを排除する傾向がある。ただし、ヒトの幼少のころ、所謂赤ちゃんの当時は、その赤ちゃんは他人の目を気にすることなく、どこでも泣きわめく。それ自体は大人になると怪しい行動パターンの一つであるが、赤ちゃんであるからこそ、社会的にそれが容認されている(ただし、最近では容認しない(できない)大人げない大人も少なくないが…)。大人になって、聴衆の面前で、赤ちゃんの如き泣きわめくと、それは明らかに社会的には?となる。以前にとある議員が報道の前で、このような事件があった時、読者の方はどのように感じたかは分からないが、明らかにネットでの反応を見ると、社会的には?といえる行動パターンであったに違いない。社会という枠組みにおいては、他人の目は明らかに何かの抑止力ともなっている。それは、人間的な行動の振る舞いの規定ともいえるのかもしれない。
このような他人の目に対する実験に、ニューカッスル大学の動物行動学者のMelissa Bateson博士ら1)の研究に次のようなものがある。大学のコーヒールームでのコーヒーや紅茶などの飲み物の提供の際に利用された募金箱への寄付が、他人の目の画像によってどのような影響を及ぼすか、である。他人の目の画像に対して、花の画像を選び、それをコーヒーや紅茶の配給装置のカウンターに設置した。その結果、花の画像ではなく他人の目の画像が提示されたとき、飲み物への代金として3倍近くを支払われたことが判明した。このことから、博士ら1)は、ヒトの協調行動に注目される手がかりとして、他人の目があることを指摘している。
一方、京都大学野生動物研究センターの山本真也博士ら2)によれば、ヒトDNAにも最も近いとも言われているチンパンジーにも協調行動があるとされる。しかしながら、その行動は限定され、現在の研究でのチンパンジーの援助行動は、18カ月の幼児の同じくらいであるとされる。さらに、他の人の目標を理解したとしても、要求されない限り他のチンパンジーを助けたことはほとんどなかったことも指摘している2)。このようなことから、他人の目が、それが目標として協調行動へと結びつくのは、やはりヒトの特徴の一つでもあろう。さらには、その他人の目のベースともなるであろう、社会的な行動と協力を維持する関係において、公平感と共感感の相互作用が重要であることも博士ら4)は指摘している。ここで、共感感は向社会的行動を促進し、公平感は社会の安定化としての役割があるが、この公平感がなければ、共感感的な動物はフリーライダー(*)によって悪用される可能性があり、協力が消滅するとも指摘する4)。このことから、他人の目は、協力の消滅を防ぐ形で、ある意味、社会的な抑止力として、人間的な行動の振る舞いの規定にもなるといえようか。
*: フリーライダー: ある集団がメンバー同士の貢献によって付加価値を産み出すとき、自分は何も貢献せず、他のメンバーに貢献させておいて、得られた付加価値の恩恵にはあずかる人のことを指す4)
1) Bateson, M., Nettle, D., Roberts, G. (2006). Cues of being watched enhance cooperation in a real-world setting. Biology Letters 2: 412-414.
2) Yamamoto, S., Humle, T., Tanaka, M. (2012) Chimpanzees’ flexible targeted helping based on an understanding of conspecifics’ goals. PNAS 109: 3588–3592.
3) Yamamoto, S., Takimoto, A. (2012) Empathy and Fairness: Psychological Mechanisms for Eliciting and Maintaining Prosociality and Cooperation in Primates. Social Justice Research 25: 233-255.
4) https://www.weblio.jp/content/フリーライダー (閲覧2017.11.7)