No.594

題名:人の顔が認識されるに至る諸段階
報告者:アダム&ナッシュ

 本報告書は、基本的にNo.593の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 先の報告書で人の顔の認識に伴う脳の領域について特定することができた。ここでは、人の顔がどのように認識されるかについて、それまでに至る各諸段階を調査したい。
 人の顔を認識されるまでに、その顔がよいか、あるいは、わるいかとの判断の前に一旦、眼から入ってきた光が網膜にあたり、それによって顔の光の情報が脳内に伝達される。その光の情報にはむろんよい、わるいの判断だけではなく、人が顔から受け取る感情などの情報も一切含まれていない。視細胞に送られる光の情報が光電変換され電気信号となるだけである1)。その後に、色、輪郭、形などの感覚信号に変換され、脳の後頭部にある視覚野でそれらの信号が解釈されやすいように原素的な形に処理され2)、その信号が脳の様々な領域に送られ、それが顔情報であれば、ようやく顔の認識に至る。その顔情報の送られる領域の一つが、先の報告書の紡錘状回にあたる。ただし、図で示すように顔の認識においては2つの系統がある。個人の認識などの不変的な側面である系統は、先の紡錘状回(fusiform gyrus)が担い、視線・表情・唇の動きなど、顔の可変的な側面である系統は、側頭葉にある脳溝のひとつである上側頭溝(Superior temporal sulcus)が紡錘状回を媒介しながら担う。その後に、頭頂葉にある脳溝の頭頂間溝(Intraparietal sulcus)や扁桃体(Amygdala)、島皮質(Insura)、大脳辺縁系(Limbic system)や前側頭葉(Anterior temporal)などの領域によって空間方向性注意や感情や個人特定、名前、伝記的情報などの照合が行われる。これによって、ようやくその人の顔がよいか、わるいかが判断され

図 視覚情報の2つの系統3)

る。さらに、その人の顔が持つ表情が、先の報告書であげたダーウィン博士の表情の内面にある悲哀、上機嫌、不機嫌、憤怒、嫌悪であるとの判断にも繋がる。
 猿による研究から、脳内で顔を表現するために使用されるコードは、特定の顔に調整された神経細胞のグループではなく、さまざまな顔の特徴をコードする約200個の細胞の集団に依存する4)。これによって、任意の顔でも脳内では効率的にその顔を捕捉できる4)。このことから、顔の特徴はコード化されている細胞によることが明らかである。しかしながら、そのコードの組み合わせから、その顔がよいか、わるいか、あるいは、美しいかの判断が成されているのかは、文献4)からでは明らかではない。一方、絵画の美しさの研究によると、美しいと感じる絵画に関しては脳内の眼窩前頭皮質(orbito-frontal cortex)が働くことが示唆されている5)。

1) 山田雅弘: 網膜における視覚情報処理のメカニズム. 照明学会誌 71: 712-718, 1987.
2) ソルソ, RL: 脳は絵をどのように理解するか. 新曜社. 1997.
3) Haxby JV, et al.: The distributed human neural system for face perception. Trends Cogn Sci 4: 223-233, 2000.
4) https://www.sciencenews.org/article/brains-encode-faces-piece-piece (閲覧2017.9.6)
5) Kawabata H, Zeki S.: Neural correlates of beauty. J Neurophysiol 91: 1699-705, 2004.

 
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