No.3013

題名:「孤独のグルメ」井之頭五郎と松重豊氏における、食の許容性と現実的乖離についての考察
報告者:ゴンベ

 テレビドラマ「孤独のグルメ」において、主人公・井之頭五郎が織りなす圧倒的なまでの「食」への没入感は、長年にわたり多くの視聴者の食欲を刺激し、深夜の理性を破壊してきた。彼は画面の中で、和・洋・中を問わず提供されたあらゆる料理を平らげ、「焦るんじゃない、俺は腹が減っているだけなんだ」と己の生理的欲求に極めて忠実に従う。画面から伝わるその無尽蔵な胃袋と偏見なき味覚は、我々に「彼には食べ物の好き嫌いなど存在しない」という確固たる幻想を抱かせる。

 しかし、井之頭五郎を演じる俳優・松重豊氏という実体に目を向けると、事態は我々の幻想から大きく乖離していく。驚くべきことに、松重氏本人はかなりの「小食」であることを公言している。撮影の際には、演技としての「飢餓」を真に表現するため、前日から極限まで腹を空かせたうえでストイックに撮影に臨み、大量の食事シーンのあとには整腸剤を飲んで胃を労るという、まさに命を削るような自己犠牲を払っているのである。

 さらに、彼には明確な「苦手な食べ物」が存在する。幼少期に食べて吐き出してしまったトラウマから、サンドイッチの中に入っている「ある特定の具材」だけはどうしても口にできない。それが何であるかは、ミステリーのように固く伏せられたままである。

図 サンドイッチに潜む正体不明のトラウマ具材

 食を無邪気に謳歌する井之頭五郎の影で、松重氏は小食な胃に鞭を打ち、苦手な具材の恐怖と戦いながら、孤高のグルメを演じきっているのだ。自己の限界を超えてまで「最高の食の喜び」を意図的に創り出すその姿は、もはやプロフェッショナルを超え、ある種の狂気すら孕んでいる。  すなわち、真に恐ろしいのは、深夜に高カロリーの料理を見せつけるテレビ番組自体ではないのだ。自らの小食やトラウマを完全に押し殺してまで、人々に「美味しそうに食べる姿」を完璧に提示し続ける人間のすさまじき表現欲求とエゴイズムこそが、最も底知れぬミステリーなのであろう。

 
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